違和感の所在
そして、程なくして白神神社にたどり着いた。
相変わらずのオレンジ色の光に包まれた境内は、どことなく寂しいような、そんな漠然とした不安を僕に感じさせる。
「さて……どうでしたか? 昨日から今日にかけての感想は?」
琥珀は……境内の隅っこに設置されている石造りの腰掛けに座ると、僕にそう尋ねてきた。
「……それは、どういう意味?」
「うふふ……さすがに気づいているでしょう? アナタの周りで起きた多くの変化……そして何より、アナタは私という存在に違和感を覚えている……違いますか?」
淡々と落ち着いてそう続ける琥珀。
僕は否定することができなくて、ただ彼女のことを見ていた。
「……それは、八十神語りに関係あるんだよね?」
僕がそう質問すると、琥珀は小さく頷いた。
「ええ。そうです。今から、その種明かしのお話をするのです」
「……種明かし?」
「はい。賢吾の周りで起きた変化は……カクシガミ様のお力によるものなのです」
カクシガミ……それがなんとなく、どういう神様なのかは、琥珀の説明を聞かなくても想像はつく。
しかし……一体その神は僕の日常に何をしたというのだろうか。
そして、僕がずっと抱いている琥珀に対する違和感……その原因がカクシガミにあるのだろうか。
「……話してくれるんだよね? カクシガミ様の話」
「ええ。カクシガミ様の話は、八十神語りでは唯一、先に現象を経験させ、理解させてから話すのが習わしになっています……だから、こうして一日遅れでアナタに話すのです」
琥珀はそう言い終わると、小さく息を吐く。
「ですから、カクシガミ様の話をしたからといって、何か特別なことが起きるわけではありません。つまり……私に対してアナタが持っている違和感は、カクシガミ様の仕業ではないということです」
「……それならば、その原因は?」
すると、またしても嬉しそうに琥珀は微笑む。
「それは、まだ言えません。八十神語りが終わる頃には鈍感な賢吾にも理解できていると思いますよ」
僕は本来は言い返したかった……だが、どうにもそれが躊躇われてしまう。
琥珀の言うとおり……僕は何か大事なことを忘れている。
それはまぎれもなく、琥珀に関することなのだけれども……正確には思い出せないのだ。
おそらく番田さんが口にしていた紅沢神社……この名前が関係しているのだろうけど……
「では、はじめましょうか。カクシガミ様の話を」
未だにあれこれと思考する僕を放置して、琥珀はカクシガミ様の話を開始してしまったのだった。




