矛盾
結局、なんとかその日は放課後まで無事に過ごすことができた。
しきりに琥珀の視線を感じることはあったが……それでも、実害は僕にはなかった。
だからといって、いつまでも学校に長居する必要はない。
僕は学校が終わったらすぐにでも下校しようと準備していた。
しかし……
「賢吾」
まるで僕がそうすることを見越していたかのように、琥珀は全授業が終了すると、すかさず僕に話しかけてきた。
「え……な、何かな? 琥珀」
僕はなんとか動揺していることを悟られないように琥珀に返事をする。
「さっそく、行きましょうか」
「……へ? どこへ?」
僕がそう言うと、琥珀は呆れたように溜息をつく。
「どこって……白神神社ですよ」
「……なんで?」
僕がそう言うと、琥珀は蔑むような視線で僕を見る。そして、何も言わずにそのまま教室を出て行ってしまった。
……これは、どういうことだろうか。なぜ、白神神社に行く?
そもそも、八十神語りは既に昨日……
「……ん? そういえば……」
……していない。
していないのだ。昨日は前の八十神語り……つまり、ハコガミ様の話からちょうど10日だった。それなのに、八十神語りは行われていない。
なぜ……それは……なぜだろう?
今までの八十神語りはきちんと10日ごとに行われてきた。でも、昨日だけ行われなかった。
その代わり、昨日僕は白神神社に行った……そこで会ったのが琥珀だった。
今までの八十神語りは全部琥珀が行っていたのか……いや、違う。琥珀ではない。
琥珀によく似た人物……だけど、それは僕が今まで探してきた人物ではない。
では、その人物っていうのは……
「何をしているんですか。賢吾」
と、僕がそんな風に思考のループを繰り返していると、琥珀が戻ってきた。
「え……あ、あれ? 僕は……」
「さぁ、行きますよ」
……訳がわからない。
だけど……琥珀に付いて白神神社に向かう……それだけが、僕の疑問を晴らしてくれる、唯一の方法に思えた。
僕は意を決して、琥珀の後ろをついて歩き出した。
学校を出てしばらく歩く。琥珀は何もしゃべらないし、僕も琥珀に話しかけなかった。
一体何が目的なのか未だにわからないし……八十神語りに関しても不可解だ。
まさか、琥珀はこのまま白神神社に行って、そこで――
「八十神語りの続きをする……その通りです」
僕がそう考えている最中に、琥珀は立ち止まったかと思うと、僕にそう言ってきた。
僕はなにも言えず、ただ琥珀の言葉を聞いていることしかできなかった。
すると、琥珀は振り返った。その表情は……またしてもニンマリと微笑む不気味なものだった。
「心配しないで下さい、賢吾。八十神語りは依然、順調に続行されていますよ」
心底嬉しそうに琥珀はそう言ってまた歩き出した。
僕はそれになんと答えたらいいかわからなくて、仕方なく同様に琥珀の後を付いて行った。




