探求者の帰郷
そして、僕は校門の方に行ってみた。
お客様……この状況で僕を訊ねてくるのは1人くらいしか思いつかないが。
「あれは……」
校門の前に建っている黒いスーツ……このまま放っておくと、またしても不審者扱いされそうである。
僕は校門前の番田さんの方に駆け寄っていった。番田さんも僕に気付いたようだった。
「やぁ、すまない。黒須君。よく気付いたね」
「あはは……えっと、まだ放課後になってないんですけど……」
「知っている。今は君に悪い話を伝えに来た」
「え? 悪い話、ですか?」
すると、番田さんは申し訳無さそうな表情をする。
「悪いが、一度野暮用で私が所属している大学の方に戻らないといけなくなったんだ。だから、次に白紙町に来るのは十日位後になる」
「え……えぇ……で、でも、まだ八十神語りは……」
「ああ。わかっている。もちろん、大学の方に戻るのは、野暮用のためだけじゃない。ある協力者を連れてくるつもりだ」
「協力者、ですか?」
いきなり出てきた言葉に、僕は思わず聞き返してしまう。
「ああ。先日その協力者とも話してね。もうすぐ夏休みだから、こっちに来ることもできるそうだ」
「え……夏休みって……もしかして、その協力者って……」
「ああ。君と同じ、高校生だ」
……大丈夫なのだろうか。僕と同じ高校生って……それが八十神語りになんらかの対処法を見つけてくれる能力を持っているとでも言うのだろうか。
「まぁ、こんな状況で一度この町を離れるのは心底不本意なんだが……申し訳ない」
「あ……いえ。えっと……なるべく早く戻ってきてくれると僕は嬉しいです」
そう言うと、番田さんは小さく笑って僕を見る。
「ああ。もちろんだ。私としても、今現在、八十神語りは大きな動きを見せている。研究の第一人者として見過ごすわけにはいかないからな」
淡々とそう言う番田さん……この人は心底研究者なんだろうが……そう言われてしまうと、僕は返す言葉を失ってしまうのだった。
「では、私はそろそろ行く。また会おう。黒須君。くれぐれも、白神さんを刺激するなよ」
そう言って、番田さんは行ってしまった。怪しげな人だが……唯一、八十神語りに関して相談ができる人だった。
そんな人がいなくなってしまうのは、心底不安だった。
「お話、終わりました?」
と、そんな折に背後から聞き慣れた声がした。僕は思わず小さく悲鳴をあげる。
振り返ると、そこには琥珀が立っていた。
「あ……うん。終わったよ」
「……あの人。一度いなくなるみたいですね。そうですか……二度とこの町に来なければいいのに」
「……え?」
「いえ。なんでもないですよ。さぁ、そろそろ授業、始まりますよ」
なんだか琥珀が一瞬ものすごく邪悪な顔をして、邪悪な発言をしたような気がしたが……正確には聞き取れなかった。
そのまま僕は琥珀について、教室に戻っていったのだった。




