不可避の事象
その日、もちろん僕は集中できなかった。
隣には白髪の美少女がさも当然のように座っている……少なくとも教室においては、僕以外はそれがさも当然のようになっている。
時たま、ちらりと琥珀の方を見る。すると、まるで僕がそちらを向くのをわかっていたかのように、琥珀もこちらを見ていた。
そして、嬉しそうにニンマリと僕に向かって微笑むのである。
僕はそれがたまらなく恐ろしくて……しばらくすると、あまり琥珀の方を見ないようにすることにした。
なんとか、午前中の授業が終わり、僕はとりあえずすかさず教室を出ることにした。
正直……昼休み、琥珀に話しかけられたら、どうしたらいいかわからなかったのだ。まるで逃げるように僕は教室を脱出し、適当に廊下に出る。
「……はぁ。どうしてこんなことに……」
もっとも、廊下に出たからといって、学校では僕が相談できる相手はいない……
おまけに、今日は……
「……学食も行けないんだよなぁ」
なんとも都合が悪いことに、今財布を見てみると……中身がすっからかんなのだ。
最近何にお金を使ったのかは思い出せないが……とにかくお金がないのである。
「仕方ない……琥珀がいなくなった隙を狙って弁当を取ってくるか」
琥珀から一刻も早く逃げたくて、僕はカバンに弁当を入れっぱなしにしてしまった。
ただ、琥珀だってずっと教室にいるわけじゃないだろうし……弁当を取ってくるチャンスはある。
僕はしばらく適当に廊下を歩きまわり、それから教室に戻った。
「……いない」
僕のとなりの席に琥珀はいなかった。
これならイケる……僕はそう思い、すかさずカバンから弁当を取り出すことにした。
「……あ、あれ?」
しかし……変だった。
いつも母さんが作ってくれているはずの弁当が……カバンの中に入っていないのである。
「な、なんで……今日は母さんから弁当を受け取ったはずなのに……」
「何を言っているんですか? お母様には賢吾の弁当は私が作るから必要ないと言っていますから……中にはお弁当箱なんて入ってませんよ」
その声を聴いて、僕は恐る恐る背後を振り返った。
見ると、そこにはニンマリと笑みを浮かべ、風呂敷に包まれた何かを持った琥珀が立っていた。
「さぁ、賢吾。お弁当、一緒に食べましょうね?」




