早朝の訪問者
そして、次の日。
無論、僕はあまり眠ることができなかった。
おかしくなってしまった記憶、そして、明らかな異常……
自分の頭がどうにかなってしまったのか……そう考えると、背筋に冷たいものが走るのである。
一体どうしてこんなことになっているのか……とても、僕一人では理解できない状態だった。
「……はぁ」
「あら、賢吾。どうしたの?」
既に父さんは会社に行った後だったらしい。リビングでは母さんが僕に対しての朝食の準備をしていた。
「……いや、ちょっと眠れなくて」
「あら。そうなの? 何か悩み事? もしかして……琥珀ちゃんのことかしら?」
嬉しそうにそういう母さん……確かにその通りなので、否定することもできない。
「……まぁ、そんなところかなぁ」
「うふふ。いいわねぇ、若いって。でも、ダメよ。悩んでばかりじゃ。きっと琥珀ちゃんだって、賢吾と同じことで悩んでいるかもしれないわ」
同じこと……いやいや。問題の原因があの琥珀にあるのだ。
そもそも、琥珀の正体だって未だに正確に理解できていない……一体彼女の目的はなんなのか……
僕はけだるい気持ちのままに母さんが運んできてくれたコーヒーに口を付ける。
「というか、賢吾。そろそろ時間じゃないかしら」
「……時間? 学校に行く時間ってこと?」
僕はそう言われて時計を見る。
学校までは十分程度……まだ家を出るには早い時間である。
「あはは……母さん。まだ早いよ。それにコーヒーだってまだ飲んでいる最中だし……」
「あら? でも、そろそろ――」
母さんがそう言った矢先だった。
玄関からピンポーンというチャイムの音が聞こえてきた。
「ほら。やっぱり。もう来ちゃったじゃない」
母さんが呆れ顔でそう言う。僕はなにがなんだかわからないままに、玄関へと向かう母さんの後ろ姿を見ている。
「ごめんなさいね……今すぐ支度させるから」
「いえ。お母様。お気になさらず」
……ん? 今の声……どこかで聞いたことのある声だ。
というか……昨日聞いたばかりの声……同時に、僕に恐怖を思い出させる声だった。
「ほら! 賢吾。琥珀ちゃん、もう来ちゃったわよ」
琥珀……僕はすぐにはその言葉の意味が理解できなかった。
しかし、暫く経ってから、それが信じられず、慌てて玄関へと向かった。
「あら。おはようございます。賢吾」
僕は唖然としてしまった。
そこに立っていたのは……ウチの学校の女子の制服姿の、白神琥珀だったのである。




