異変
「あら、お帰り、賢吾」
家に帰ると、父さんと母さんが既に食卓に着いていた。
僕は未だに先ほどのこと……琥珀との一件が理解できていないままに、そのまま同様に食卓に付く。
「なんだ。元気がなさそうだな」
父さんが心配そうに僕にそう言う。
「え……あ、あはは……そりゃあねぇ」
父さんなら理解してくれていると思ったが……なんだか父さんの様子がおかしかった。
まるで僕に元気がないことに違和感を持っているような……僕が元気であることが当然のような態度である。
「あらあら。もしかして、琥珀ちゃんと喧嘩でもしたの?」
その瞬間、僕の背筋に冷たいものが走る。
そのまま思わず母さんのことを見てしまった。
「ん? どうしたの? そんな顔して」
「え……だって、母さん、今……」
しかし、母さんは不思議そうな顔のままだ。
「おいおい。賢吾。ダメだぞ。琥珀さんは将来お前にとって大切な存在になる人なんだ。喧嘩なんてしたら、きちんと謝らないと」
父さんまでもそんなことを言ってくる。流石に信じられなかった。
そもそも……なんで母さんと父さんが琥珀のことを知っているんだ? 一度も喋ったことだってない……
「と、父さん……こ、琥珀は白神神社の……」
「ん? 白神神社の巫女さんだろ? 知っているよ。それくらい」
父さんには聞けなかった……母さんがいる手前ということも八十神語りのことを聞けなかったのである。
そもそも、普通に白神神社のことを口にしている時点で……もはや、父さんに八十神語りのことを話しても仕方がないだろう。
というか、将来大事な存在になるって……一体どういうことだろう。
怖くて聞きたくなかったが……
「さぁ、そろそろご飯、食べましょうか」
「……ごめん。僕、ちょっと電話してくる」
「あら? 琥珀さんに謝る気になったのかしら?」
母さんも父さんもにこやかに笑っている……おかしい。何かが既に狂っている。
僕はどうしても確認しておきたかった。僕にとって残された唯一頼れる人に異変が起きていないか、を。




