記憶の改竄
「白神……琥珀……?」
違和感があった。僕は……その名前を知っている。
しかし……白神? いや、そんな苗字ではなかったはずである。
「うふふ……変、ですか?」
僕の気持ちを見透かしているようで、白神と名乗った少女は嬉しそうに笑う。
「アナタは、私の名前を知っている……しかし、私が今名乗った名前は、アナタの知っている私の名前ではなかった……そうですね?」
まるで心を読み取られているような感覚……僕は否定することもできず、ただ目の前の白髪の少女を見つめていた。
「そんなに警戒しないで下さい。アナタが私の名前に心当たりがあるということは、私とアナタは知り合いだった……それも、ずっと前から知り合いだったのではないですか?」
……確かにその通りだ。僕は彼女を知っているし、前から知り合いだった。
でも、昔からの知り合いではない……
……そうだろうか? いや、僕は彼女と昔から知り合いだったのではないだろうか。
自分でも理解できない感情がこみ上げてくる。まるで、勝手に自身の記憶が書き換えられていくような……
「どうしたんですか? 黒須さん。顔色が真っ青ですよ?」
「え……?」
少女にそう言われて、僕は我に返る。
「考えすぎです。私のことは、琥珀、とお呼びください。それなら、きっと黒須さんも納得できるのではないですか?」
「え……そ、それは……」
「では、それで決まりです。私もアナタのことを、賢吾、と呼びますね。うふふ……昔からの知り合いなんです。下の名前で呼び合うのも当然のことですよね?」
そう言って彼女が微笑むと、またしても頭の中をかき回されるような、嫌な気分になる。
僕は……そうだ。琥珀と知り合いだったのだ。知り合い……どこで知り合った? いや、でも彼女はそう言っている……
そもそも僕は誰かを探していたのだ……目の前の少女に似ているのだけれど、違う誰かを……
「賢吾」
そこまで考えていたのに、ふと、琥珀に呼ばれ、僕は思考を遮断させられてしまう。
「石段の下まで送ります。さぁ、今日はもう帰ったほうがいいですよ」
「あ……うん……」
まるで催眠術にかかったように、僕は琥珀の言うとおりに、琥珀の後をついて、石段を降りていったのだった。




