可能性の真実
「……それは、八十神語りのせいでお爺さんが殺された、って言いたいんですか?」
僕がそう言うと、番田さんはただ小さく視線を動かした。
「正確には、そう言えないかもしれない。ただ、それに近いことが起こったのではないかと、私は考えている」
「それに……近いこと?」
「ああ。元来、八十神語りを途中で放棄した者達には不幸な結末が待っていた……ただ、それは当事者以外にも同様のことではないか、と私は思っている」
番田さんは険しい表情でそう言っていた。しかし、どうにも僕には要領を得ない。
「当事者以外……それが、番田さんのお爺さんだってことですか?」
「もちろん、私だってその立場にいる。君と行方不明の紅沢の巫女以外はその立場にある人間だ」
そう言われて僕は嫌な気分になった。つまり、黒田さんのお爺さんのような目にあう可能性があるのは、僕の周りに他にもいる……番田さんはそういうことを言っているのである。
「でも、なんでそんなことを……」
「八十神語りは神を呼ぶ儀式……それを邪魔する者がいかなる目に遭っても、それは不思議ではない」
「それじゃあ、お爺さんは黒田さんのことを……」
あの部屋の状態、そして、僕が見た夢……お爺さんが黒田さんのことをどうにかしようとした可能性はある。しかし、逆にそれは自分にとって命取りだった……
「ただ、もう一つ可能性はある」
と、そこで番田さんは渋い顔でコーヒーを飲み込んだ。
「え……可能性?」
「ああ。神主が……八十神語りの真相を知っていたのではないか、ということだ」
番田さんは重々しい調子でそう言った。
「……知っていた? 黒田さんの、お爺さんが?」
「ああ。私はどうにもその可能性のほうが……高いのではないかと思う」
番田さんの言葉に僕はどう反応したらいいかわからなかった。
ただ、無言で番田さんのことを、僕は見ていた。
「……なんで、そう思うのですか?」
「理由はいくつかあるが……やはり、ハコガミ様の話、それを神主が私に詳細に教えなかったこと……今までの協力的な態度から一転して情報を出し渋るような素振りを見せていた」
「……それは、つまり……」
僕がそう訊ねると、番田さんは少し間を於いてから、先を続ける。
「神主は……最初から、こうなること……つまり、自身の孫が白神さんの虜になることを分かっていた、ということだ」




