背後にあるモノ
「番田さん……えっと、なんで、学校の前にいたんです?」
喫茶店テンプルに場所を移し、僕は番田さんにそのことを訊ねた。
黒いスーツの男は、相変わらず頼んだコーヒーを不味そうに啜りながら、僕のことを見る。
「ああ。君に話しておくことがあってね」
「え……僕に、ですか?」
「そうだ。黒田老人……紅沢神社の神主のことだ」
神主……つまり、以前行方不明の黒田さん、そのお爺さんのことだ。
縄で首を吊って死んでいた黒田さんのお爺さん……僕は、その光景を思い出してしまい、再び嫌な気分になる。
「えっと……どういうことですか?」
「遺書らしいものがあったらしい。現物は見せてもらえなかったが、書いてあることだけは警察からも教えてもらってね」
遺書……つまり、お爺さんはやはり自殺だったということになる。
しかし、なぜ自殺なんて……僕の脳裏に思い浮かぶのは、黒田さんに会わせてもらえなかったあの日……怒りの形相のお爺さんの表情があった。
あの表情からして、自殺なんて考えられないとは思うのだが……
「それで、なんて書いてあったんです?」
「ああ。一言『琥珀、申し訳ない』とだけらしい」
琥珀……つまり、黒田さんのことだ。そりゃあ、黒田さんを残して自殺してしまうのならば、そういうのは当然である。
「……まぁ、そりゃあそうだけと思いますが」
「ああ。私もそう思う。これが普通の自殺ならな。だが、問題なのはこの自殺の背後には八十神語りが存在しているということだ」
番田さんにそう言われて僕は、眉間に皺が寄る。
「それは……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。つまり、普通の自殺ではないということ……私の推論では、神主は八十神語りのせいで自殺したのではないかと考えている」
番田さんははっきりと、そしてためらうこと無くそう言ったのだった。




