お守り
元々は鳥居があったと思われる場所……そこから少し離れた所に、拝殿の残骸は存在していた。
それが建造物であったのかも今となっては微妙な所……それくらい、拝殿の残骸は無残に黒焦げになっていた。
「話によれば、この拝殿の内部から出火したそうだ」
番田さんも険しい顔でそういう。
「……じゃあ、拝殿の中にその男女が火を付けたってことですか?」
「そうなるな……しかし、何のためにわざわざ拝殿に侵入し、そこで火を付けたのか……そこはやはり君から聞いたハコガミ様の話と関係しているのではないかと、私は考えている」
……しかし、ハコガミ様の話では神社が燃えるとか、そういうことは言っていなかった。
いや、もしかすると、白神さんがしなかっただけなのかもしれない。それに、ハコガミ様の話では、巫女と村の男性は行方不明になったと言っていた。
身元不明になった焼死体……これは、つまり行方不明と同義なのではないだろうか。
そうなれば、ハコガミ様の話も実際にあった話ということになるが……
「……しかし、やはり君の言うとおりかもしれないな。ここには何もないようだ」
番田さんそう言って旧白神神社の捜索を終わらせようとしていた。
実際、僕も同感だった。こんな黒焦げた瓦礫の中に何か手がかりなんて……
「ん?」
そう思った矢先、僕は拝殿の残骸の中に何か違和感のある物体を見つけた。
小さな袋のような……それでいて、僕が見たことある者……
僕は思わず手を伸ばし、それを手にしていた。
「あ」
それを確認して、僕は思わず声をあげてしまう。
それは……お守りだった。しかも、僕が見たことのあるお守り……紅沢神社のお守りだった。
忘れ去られたようなこの廃墟に、そのお守りだけ新品同様に存在していたのだ。
「それは……お守りか?」
番田さんも怪訝そうな顔で僕が手にしたものを見る。
「ええ……紅沢神社のお守りみたいです」
「どれ……ふむ。そのようだな。しかし、なぜそれがこんな場所に……」
僕は少し嫌な予感がしてきた。ここに紅沢神社のお守りがある意味。
そして、旧白神神社で起きた放火事件……
「……番田さん。八十神語りの歌……覚えてますよね?」
僕は思わず番田さんにそう訊ねてしまった。
「ん? ああ。覚えているが……なぜそれを?」
「……ハコガミ様の次の話は、なんでしたっけ?」
「『よんがみきたりて かみかくさん』……この意味は……」
それを聞いて僕はいてもたってもいられなくなった。
そのまま思わず、走りだしてしまった。
「お、おい! どうしたんだ!?」
番田さんの呼声を背中に受けて僕は振り返る。
「僕……紅沢神社にもう一度行ってきます!」
その後は番田さんの方には振り返らず、全速力で紅沢神社へ向かって走りだした。