旧き場所
それから数十分後、僕と番田さんはまたしても北側地区……旧地域にやってきていた。
相変わらずなぜか僕は不安に襲われる……番田さんは平気なようだった。
「……それで、白神神社は元々はどこにあったんですか?」
「北側地区の中心部だ。そこに今でも火災があった当時のままに残されている」
火災……そういえば、黒田さんがそう言っていた。今ある白神神社は移転したものだ、と。
しかし、火災があった時のままになっているというのも、なんとも不気味な感じだ。どうして撤去したりしないのだろうか。
「……番田さんは、行ったことあるんですか?」
「残念ながら、ない。そして、できることなら、行かない方がいいと紅沢神社の神主からも言われていた」
「そ……それくらい、危険なところなんですか」
「当たり前だ。白神村の中心部……八十神語りの元本拠地だ。そこに行って何に遭っても不思議ではない」
僕はそれ以上番田さんに何かを聞くのはやめておいた。これ以上聞いた所で不安な気持ちが増大されるだけだからである。
番田さんに言われるままにしばらく北側地区の中心部に向かって歩くと、石段が見えてきた。
「……あの上に、元々は白神神社が?」
「ああ。南側地区の白神神社は、元々の神社の構造を真似て作ったものだ。だから、この石段を登れば良い」
そうして、僕と番田さんは石段を登り始めた。
なんだか……いつもより足が重い気がする。
まるでこの先には行くなと言われているような……そんな気持ちすら沸き起こってきた。
「おい。大丈夫か?」
番田さんに言われて我に帰る。
「……番田さん。なんで八十神語りなんて……あるんですかね」
思わず僕はそう訊ねてしまった。
番田さんは嫌な顔をするわけでもなく、ただ、ジッと考えこんでいる。
「正確なことは分からない。ただ、話を聞いていると……八十神語りは、もっと個人的なことだったのではないかと、私は思う」
「……個人的なこと?」
「そうだ。私は今まで八十神語りは村に必要な儀式だと分析してきた……でも、実際はもっと個人的な……祈りや願いに似たものだったのではないかと。私は思う」
祈り……願い。
そんな綺麗な言葉で、片付けられるのだろうか。
八十神語りには、僕が知らない、もっと重要な何かが隠されている……僕にはそう思えた。
「おお、見えてきたぞ」
番田さんの声とともに、僕の目にも見えてきた。
まるで、時が止まったようにそのままになっている、黒焦げになった瓦礫の山……旧白神神社の残骸だった。




