手がかりを求めて
「……それで、朝早く私に電話をしてきたわけか」
次の日の放課後、僕は喫茶店テンプルにいた。
机を挟んで向かい側には、黒いスーツの怪しげな男性……八十神語り研究の第一人者、番田宗次郎が座っている。
「……すいません」
あんな夢を見てしまったとはいえ、さすがにいきなり番田さんに電話をするのは不味かった気がしてきた。番田さんは険しい表情で僕のことを見ている。
「いや、別に謝らなくていい。ただ……ハコガミ様だったな」
「え? あ、ああ……そうです」
番田さんに言われて僕は思い出す。
ハコガミ様の話……そして、僕が体験した白神さんとの間の不思議な出来事、さらには黒田さんのことを裏切ってしまったこと……すべてを番田さんに話した。
「もう一度確認するが、君は紅沢神社の巫女と、待ち合わせをしていた……しかし、自分の意思とは関係なしに、その白神さんと白神神社に行ってしまったんだね」
「はい……なんというか、自分が自分でないみたいな……そんな感じで」
「そうか……そして、君は本当に、紅沢神社の巫女との約束を守る気はあったのだよね?」
「と、当然です!」
思わず声を荒らげてしまった。と、愛想のない店主が険しい顔で僕のことを見る。
「……すいません。つい……」
「いや、構わない。そうか……しかし、困ったことになった」
「え? どういうことですか?」
「……悪いが、ハコガミ様に関しては、何の解決策もわかっていないのだ」
「……へ?」
思わず僕は間抜けに声を漏らしてしまった。番田さんも眉間に皺を寄せている。
「カガミ様の話までは神主も協力的だったんだが……どうにも、ハコガミ様に関しては神主もよくわかっていなかった……というより、ハコガミ様から先の八十神語りに関しては話したくなさそう、という感じだった」
「え……黒田さんのお爺さんが……」
「ああ。そして、君の話から考えると……どうにも神主の協力はこれ以上得られないようだな」
そう言われて僕は昨日黒田さんの家に行った時のことを思い出す……黒田さんのあのお爺さんの形相……思い出しただけでも嫌な気分になってきた。
「……じゃあ、番田さんにも今回ばかりは……」
「いや、そうでもない」
そういって、番田さんは目の前にあったコーヒーを一気飲みし、立ち上がった。
「行く宛はある。そして、そこに手がかりがある可能性も」
「え……それって……」
「決まっているだろう。北側旧地域の旧白神神社跡だ。そこに何かが隠されているに違いない」




