悪夢
その日の夜。僕はまた夢を見た。
場所は……今度は紅沢神社だった。
僕は自然と神社内の黒田さんの家の方へ向かっていく……それこそ、まるで導かれるようにして。
しばらくすると、何かを打ち付けるような音が聞こえてきた。
何かを壁にコーン、コーンと……なんだか聞いていて嫌な気持ちになった。
その音は黒田さんの家に近づくにつれてどんどん大きくなっていった。玄関の前まで来ると、その音はやかましいくらいに大きくなる。
僕はそのまま家の中に入ってしまった。家の中からはお爺さんが出て来る気配はない。
「黒須さん」
と、不意に背後から声が聞こえてきた。僕は慌てて振り返る。
「あ……黒田さん!」
そこに立っていたのは、いつも通りの黒田さんだった。
「黒田さん……良かった」
「良かった? 何がです?」
「え……ああ、いや。そ、それより! あ……その、今日のこと、本当にごめん……」
僕は思わず謝ってしまった。不思議なのは、それが夢だとわかっているのにも拘らず謝らずにはいられなかったのである。
黒田さんはクスクスと笑っている。
「え……黒田さん?」
「……さぁ、黒須さん。私の部屋に来てください」
そういって黒田さんは廊下を歩いて行く。僕はそれに思わず付いて行く。
そして、部屋の前まで来ると、黒田さんは立ち止まった。
「ああ。そうだ。お茶を持ってきますね。先に部屋に入っていてください」
黒田さんはそう言うと、元来た廊下を歩いて行ってしまった。
僕は戸惑ったが……仕方なく部屋の中に入ることにした。
扉を開けて部屋の中にはいる。しかし、部屋の中は真っ暗だった。
「電気は……あ。点いた……え……う、うわぁぁぁ!?」
僕は思わず驚いてしまった。
部屋の中には辺り一面にぬいぐるみの残骸が散乱していた。
かつて、黒田さんの部屋のベッドの上で見たぬいぐるみが無残にも切り刻まれ、首や手足がとれてしまっていたのである。
「な……なんでこんな……ん?」
僕はふと、近くに転がっているクマのぬいぐるみの頭部の額に、何かの紙が貼り付けられているのを見つけた。
恐る恐るクマの首を手に取り、その額に貼られている紙に書かれている言葉を見る。
「……こ、これは」
「黒須賢吾」
紙に書かれていた僕の名前を見た瞬間、背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
思わず僕はその場から飛び退いてしまう。
「あ……く、黒田さん……」
背後にいた黒田さんは笑っていた。
その表情はいつもの黒田さんではない……不気味な微笑を湛えた誰かに似ているその笑み……
「白神さんに、似ていますか?」
ニンマリと笑いながら黒田さんはそう言った。僕は恐怖のあまり何も言えない。
「うふふ……そう。私は……白神……白神さん……うふふ……」
「え……く、黒田さん……?」
狂気じみて笑う黒田さんの髪が……どんどん白くなっていく。
まるで金縛りにあったかのように動けない僕の近くにやってきた黒田さんは、耳元に口を近づける。
「さぁ、黒須さん……八十神語りを続けましょう?」
「うわぁ!?」
その瞬間、僕は思わず飛び起きてしまった。今、確実に耳元で黒田さんの声が聞こえた……
「な、なんで……あ、あれ?」
そして、僕は何かを手に持っていた。その握りしめていたものを見て、再び恐怖する。
僕の手には、真っ白な髪の毛が、無数に握りしめられていたのである。




