怒り
僕は、白神神社を後にし、そのまま紅沢神社へと直行する。
黒田さん……大丈夫なのだろうか?
いくら白神さんが僕に何かをしたとはいえ……黒田さんにしてみれば、僕に裏切られたと感じるのは間違いない。
そうなると、先ほど白神さんが話したハコガミ様の話……どうにもあの話が、僕に取っては無関係ではないように思えてくる。
僕は逸る気持ちを抑えながらも、急いで紅沢神社へと向かった。
既に薄暗くなっている道を通りぬけると、紅沢神社の鳥居が見えてきた。
「……黒田さん」
後悔の念で一杯だった。僕はどうして白神さんの術中にハマってしまったのか……無論、僕にはどうすることもできないことだったのかもしれないが、それでも、後悔せずにはいられなかった。
そして、境内の中を走りぬけ、黒田さんの住まいである神社内の家屋の前にたどり着く。
「すいません! 黒田さん、いますか!?」
思わず自分でも驚くほどの大声でそう叫んでしまう。すると、家の中から玄関の方へ向かって歩いてくる音が聞こえてくる。
もしかして黒田さん……僕は咄嗟に身構えてしまった。
黒田さんならば……なんにせよ、まずは謝らなくてはいけない。僕は既に頭を下げる準備をしながら、玄関の扉が開くのを待った。
そして、程なくして玄関の扉が開いた。中から出てきたのは……
「黒田さん……のお爺さん」
思わず拍子抜けしてしまった。しかし、甚平姿のその老人は険しい表情で僕のことを見ていた。
「あ……すいません、こんな時間に。その……僕、黒田さんに――」
「……ってくれ」
「……え?」
思わず聞き返してしまう。
お爺さんの顔を見ると、険しい……というよりも、既に怒りの表情だった。
「帰ってくれ! そして……二度と、ここには来ないでくれ!」
鼓膜が破けるかと思うほどの大声でそう怒鳴られたかと思うと、老人はそのまま玄関の扉を乱暴に閉めてしまった。
何が何だかわからない僕だけが、暫くの間、間抜けにその場に立ち尽くしていたのだった。




