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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第三神
40/200

準備

 気付くと……いつのまにか、白神神社に着いていた。


 どこをどうやって、ここまできたのか……僕は思い出せなかった。ただ、目の前には白神さんがいて、僕は白神神社にいる……それだけは理解できた。


「さて……良かったのかい? 君は」


「……え? な、何がですか?」


 ふと、頭の中の靄が消えたようにすっきりとした。


 白神さんは不気味に笑っている。


 僕はとんでもないことをしでかしている……それだけは理解できた。


「約束。忘れているんじゃないか?」


「え……あ……あぁ……」


 瞬間、身体の底から恐怖が湧いてきた……とんでもないことをしてしまった。僕は思わず腕時計を見る。


 ……既に約束の時間から2時間も経ってしまっている。そんなにも長い時間、僕は白神さんと一緒にいたのか?


「な、なんで僕は……」


「ふふっ。さぁて。なぜだろうね。そこにいる彼女もきっとそう思っているよ」


 白神さんはそう言って、後を指さす。僕は思わずその指先をたどって視線を動かしてしまった。


「あ」


 思わず声を漏らしてしまった。白神神社の境内……オレンジ色に染まった場所に、彼女は立っていた。


「黒田さん……」


 黒田さんは……俺の事を見ていた。無表情で。しかし、涙が流れていた。


「く、黒田さん……これは――」


「分かっただろう? 分社の巫女。君は、また、捨てられたんだ」


 僕が話そうとするのを遮って、白神さんは黒田さんにそう言った。黒田さんは目線だけを動かして白神さんを見る。


「君は、捨てられる運命にあるんだ。何をしようが、君は捨てられるんだ」


「し、白神さん! 僕は……!」


「ん? なんだい。私と一緒にいることを選択したのは、君の方だろう?」


 ニンマリと邪悪な笑み浮かべながら白神さん葉そういう。


 ……違う。僕は選択などしていない。


 白神さんに何かをされた……理解は出来なかったが、直感が僕にそう告げていた。


「く、黒田さん! 僕は――」


「……嘘つき」


 僕がすべてを言い終わらない間に、黒田さんは僕にそういった。涙をボロボロと流しながら、冷たくそう言い放った。


 そして、そのまま何も言わずに、黒田さんは石段を降りて行ってしまった。


「そ、そんな……」


「ふふっ。さぁ、これで準備は整った。始めようか」


 と、いつのまにか、白神さんが満足そうな笑顔で僕の前に立っている。


「え……始める……?」


「ああ。今日は八十神語りの日……そう。今日の話はハコガミ様の話だ」

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