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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第三神
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靄の中

 それから、どれくらい時間が経ったのだろうか。


 僕は……なんだかふわふわとした気分だった。


 自分がどこにいるのかもわからない……いや、わかっているのだが、なんとなくそれが実感として伴ってこない……そんな感覚だった。


「どうしたんだい?」


 と、白神さんの声が聞こえてきた。


 白神さん……なんだろう。なんで僕は白神さんと一緒にいるのだろう。


 今日は何か大事な約束が会った気がするのだけれど……まるで頭にモヤがかかったかのように、僕はその約束を思い出せなかった。


「聞いているのかい? ……まぁ、いい。時間はたっぷりとあるんだ。何度でも私は話を繰り返すだけだ」


 そういって、白神さんは口元にコーヒーカップを運んでいく……コーヒーカップ……なんでコーヒーなんで飲んでるんだろう。


 そう考えた途端、僕は、自分が喫茶店テンプルにいることを認識した。


 なんでそんなことさえも気づかなかったのか……今の状況が僕には全く理解できなかったが、何かを考えようとすることは、頭がそれを拒絶してしまった。


「さて……単刀直入に言うが、私は別に君を困らせようとしているわけじゃないんだ」


 白神さんはそう言って、僕のことを見てきた。その底なし沼のような黒い瞳からを目をそらそうとしても、身体が動かなかった。


「ただ、これは……儀式なんだ。君も薄々分かっているのだろう? 私だって、好きでこんなことをしているわけじゃないん」


「え……でも、白神さん……」


 僕がそう言いかけると、白神さんは意味ありげに微笑む。


「君のお友達……分社の巫女には必要なことなんだ。特にあの子は……私によく似ている」


「え……分社の巫女……それって……」


 僕がそう言うと、白神さんは小さく頷いた。


「ああ。君は……彼女が好きだろう? 彼女も君が好きだ。それは、素晴らしいことだと私は思うよ」


「え……なんで、そんな話を……」


 僕がそう言いかけると、いきなり白神さんは立ち上がった。


「さて、そろそろ行こうか」


「え……どこへですか?」


 僕が戸惑っていると、白神さんは苦笑いをしながら、僕の方に顔を向けてくる。」


「どこって……白神神社に決まっている。今日は八十神語りをする日だろう。さぁ、私についてきてくれ」


 白神さんがそういうと同時に、僕の身体はまるで操り人形のように白神さんに続いて立ち上がり、そのまま店を出たのだった。

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