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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第三神
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美しい場所

 そして、放課後。僕はいつものように帰ろうとしていた。


「黒須さん」


 と、僕が教室から出ると同時に、黒田さんの声が聞こえてきた。


「あ、黒田さん」


 どうやら、黒田さんは僕の教室の前で待っていたようである。少し恥ずかしげな顔で僕から目をそむけている。


「その……少し、お時間よろしいですか?」


「え? ああ、はい。大丈夫ですけど……まだ何か?」


「はい……その、明日のことでお話したいことがあります」


 黒田さんのその言葉に、僕はふと現実に戻ってきた。


 明日は次の八十神語り……なんとも辛い気持ちになってきた。


「……もちろんです。行きましょう」


「はい……じゃあ、行きましょう」


 そういって、僕と黒田さんは連れ立って歩き出した。


 そういえば、既に黒田さんとはそれなりの期間、こうして一緒に過ごしている。僕は黒田さんのことを可愛いと思っているけど……黒田さんは僕のことをどう思っているのだろう。


 そんなことを考えながら、お互い一言も会話すること無く、ただ歩いた。


 気付くと、大分学校から離れた場所に来ていた。それこそ、白神神社に近い場所に。


「えっと……黒田さん。どこに行くの?」


「ああ、すいません。その……行きませんか。白神神社」


 黒田さんの言ったことが僕はすぐには理解できなかった。しかし、白神神社と口にしたことは、僕にも理解できた。


「え……白神神社、ですか?」


「ええ……ダメ、ですか?」


 ダメ……ではない。だが、やはりどうにも白神神社に向かう……僕にとっては少し躊躇いがある出来事であった。


「……いや、わかった。いいよ」


 だが、黒田さんが言うのだ。だったら、僕はそれに同意するだけである。


 僕が返事すると、黒田さんは安心したように微笑んだ。そして、今度こそ僕と黒田さんは白神神社に向かった。


 既に近いところまで来ていたこともあって、すぐに白神神社の石段は見えてきた。


 僕と黒田さんは並んで石段を昇る。この石段を登ったら白神さんが……なんてことを思ったが、八十神語りの日ではないのだ。いることもないだろう。


「……黒田さんは、見たことありますか?」


「え? 何を?」


「白神神社からの夕焼けです」


 黒田さんは目を細めて、石段から夕日を見る。オレンジ色の光が、黒田さんの黒いショートカットを照らす。


「……いや、なかったな」


「そうですか。でしたら、行きましょう」


 そういって、黒田さんは石段を登っていく。僕もそれに続いた。程なくして、神社の境内に辿り着いた。


 いつもの石の腰掛けにいる白神さんは……いない。どうやら、僕と黒田さんだけのようである。


「ほら、あそこです」


 目を細めて、黒田さんは空を指差す。その先には、町に沈みかかっている美しいオレンジ色の光があった。


「……綺麗だ」


 思わず僕はそう呟いてしまった。それを聞いて、黒田さんも目を細める。


「ええ……私、白神神社も好きなんです」


 その言葉に僕は黒田さんを見た。しかし、黒田さんは冗談ではないようだった。


「だから……いつも、ここに黒田さんと一緒に来られることは、すごく嬉しいんです」


 その時、一陣の風が黒田さんの黒髪を撫でる。黒田さんは髪を指先でかき分けた。


 その光景を見た時、僕は間違いなく、黒田さんが巫女という神聖な存在にふさわしい人だと確信した。


「あの……もう一つ、よろしいですか?」


「え? 何?」


 しばらく恥ずかしそうに躊躇った後で、至極真剣な表情で黒田さんは僕を見た。


「その……明日、私と……でーと、してくれませんか?」

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