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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第三神
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彼女の寂しさ

「え……これ、食べていいの?」


 僕がおずおずとそう訊ねると、黒田さんは小さく頷いた。


 食べていい……ってことなのだろう。


 僕は今一度、確認をしてから、おにぎりに手を伸ばした。


 白いごはんに、海苔が張ってあるおにぎり……普通だ。


 そのまま口に運び、かぶりつく。


「……梅干し?」


「ふふっ。ええ。そうです」


 嬉しそうに黒田さんはそう言う。


 ……普通のおにぎりだった。でも……なんだろうか。とてもやさしい感じがする。


「八十神語りにもお付き合いさせて……ずっと苦労をかけてきましたから……そのお礼です」


 恥ずかしそうに黒田さんはそう言った。僕はおにぎりを食べるのも忘れて、その黒いショートカットの髪が風に揺れているのを見ていた。


 ……やっぱり、そうだ。僕は、黒田さんのこと、段々、本気で可愛いと思うようになってきている。


「あ……え、えっとさ。黒田さんって……どこの組なの?」


「……え?」


「あ! ご、ごめん……いきなり訊いちゃって……でも、その……なんかあった時に、会いにいけないと困るし……」


 なんとも苦しいいいわけだが、黒田さんは俺の心境を察してくれたのか、フッと優しく微笑んだ。


「一組です。黒須さんとは、違うクラスですね」


「あ、ああ……そっか」


「ええ……いつも、私は1人ですから。何かあったらいつでも来てくださいね」


 そういって、黒田さんは寂しそうに目の前の祠を見る。


 その光景はまさしく神秘的だった。誰も黒田さんに近づかないというのは、あまりにも恐れ多いからじゃないだろうか。


「……ここ、私だけの場所だったんです」


「え?」


「悲しい時や寂しい時……私、ここに来るんです。すると、この小さな祠に宿る神様が私を励ましてくれるみたいで……って、変ですよね?」


 苦笑いしながらそういう黒田さん。やはり、可愛らしかった。


「い、いや……そんなことはないと思うけど」


 僕は気まずかったので、おにぎりを頬張りながら先を続ける。


「……昔は、この町でももっと神様への信仰が篤かったと、おじいちゃんは言っていました。それが、八十神語りのような因習を生み出し、白神さんという存在を作り出したこともわかっています……でも、やっぱり、寂しいです」


「それは……紅沢神社の巫女として、ってこと?」


 僕がそう訊ねると、黒田さんは曖昧に微笑んだ。


 寂しい……僕だって、八十神語りに関わるまで、この町、この場所の神様なんて意識していなかった。


 それに、紅沢神社だって、白紙町の大きな神社、ってだけで、特別な思い入れはない。でも、それは黒田さんにとっては、やはり、寂しいことなのかもしれない。


「……おにぎり食べたら、戻りましょう。ずっとここにいるわけにもいかないですから」


「まぁ……そうだね」


「……私は、ずっといてもいいんですけど」


「え? 何か言った?」


 黒田さんは小さな声で何か言ったようだった。しかし、なぜか顔を赤くして首を横にふる。


「な……なんでもないです! さぁ、早く食べて下さい」


 そう言われるままに、僕はそのままおにぎりを食べ続けたのだった。

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