小さな祠
「……えっと、それで、どこに行くの? 黒田さん?」
付いて行く間に、いつのまにか外に出てしまった。
黒田さんは何も言わないままにそのまま歩いている。
「黒田さん?」
僕が今一度呼びかけると、さすがに黒田さんは振り返った。そして、恥ずかしそうにしながら僕のことを見る。
「その……校舎の裏まで来てくれませんか?」
「へ? 校舎の裏?」
校舎の裏に何があるのかわからなかったが……黒田さんがそう云うなら行かないわけにはいかなかった。
僕は頷く。黒田さんは安心したようにそのまま校舎裏に向かった。
校庭を横切って、そのまま人気のない校舎裏へと向かっていく。
「えっと……黒田さん。校舎裏になにがあるの?」
我慢できず僕は訊ねてしまった。それと共に黒田さんは前方を指差す。
「あれです」
黒田さんが指差す方を見ると、そこにあったのは……
「……祠?」
そこにあったのは、小さな祠だった。よく街角なんかにある小さな鳥居がある祠……それが校舎裏の一角……丁度、学校の敷地の角に当たる場所に存在していたのだ。
「……あの祠は……何?」
「あれは、紅沢神社の祠……あの中で祀られているのは、紅沢神社と同じ神様です」
「そんなものがウチの学校に……知らなかった」
僕がそう言うと、黒田さんは自嘲気味にそう微笑む。
「ですよね……紅沢神社は確かにこの町で一番大きな神社ですけど、その有り難みなんて遠い昔に忘れられています……この町にホントに神様がいるって思っている人なんて……もう誰もいないんですから」
「え……いや。僕は……神様はいるって思っているけど」
実際、その神様らしき存在に迷惑を被っているのだ。神の存在を信用しない方が難しい。
僕がそう言うと、黒田さんは嬉しそうに微笑んだ。
「ええ……ですから、黒須さんだけは、この場所にお連れしたんです」
そう言うと、黒田さんは今まで手にしていた袋を僕に差し出してきた。
「え……これは?」
「……その、作ってみたんです。食べてくれませんか?」
黒田さんがそう言うと同時に袋を開くと……中には幾つかの拳大のおにぎりが詰められたお弁当箱が入っていたのだった。




