重要な話
「え? 今日はお弁当いらない?」
母さんは不思議そうな顔で僕にそう訊ねて来た。
僕も自分で一体何を言っているのか……よくわからなかった。
「あ……うん。とにかく、いらないんだ」
「そう……まぁ、お母さんは楽だからいいけど……」
そして、結局、その日、僕は弁当を持たずに学校に行った。
果たして、黒田さんはどういう意図であんなことを言ったのか……未だに理解できなかった。
学校に着いても、どうにも落ち着かなかった。あまり授業内容が頭に入らない……というのは、いつも通りであったが。
それにしても……昨日の黒田さんは様子もおかしかった。なんだかソワソワしていたし……
まぁ、八十神語りも後2日……落ち着かないのも理解できる。
僕だって、また白神さんと出会ったらどんな顔をすればいいのか……それでも、八十神語りは続けなければいけないのだが。
で、結局昼休みなった。
僕は弁当を持っていないのでどうしようもない。かといって、購買に行くのも、直感的に不味いような気がする……
だから、席で待ってみた。と、しばらくして、黒田さんが姿を表した。
「あ、黒田さん」
黒田さんは……なんだか緊張しているようだった。表情も強張っているし……もしかして、また不味いことでも起きたのかもしれない。
僕は不安になって思わず立ち上がる。
「黒田さん……また、何か?」
すると、黒田さんはこちらに来るように、廊下から手招きしてくる。
僕は言われるままに黒田さんの方に近寄っていった。
「え? 何? 黒田さん」
「……その、二人きりでお話したいことがあります」
辛辣そうな表情で黒田さんはそう言った。二人きり……人には聞かれはいけない話なのだろう。
「わかった。じゃあ、行こう」
「え? よ、よろしいんですか?」
「ああ。もちろんだよ。重要な話なんでしょ?」
僕がそう言うと、黒田さんは小さく頷いた。少し覚悟が必要なようである。
「……じゃあ、行こう」
「は……はい」
僕と黒田さんは並んで廊下を歩き出したのだった。




