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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第二神
30/200

カガミの中

 人影というか……モヤモヤとした物体。明らかに尋常でない何か、だった。


 番田さんに声をかけようとしたが……声が出なかった。そして、鏡から顔を逸らすことも出来ない。


 鏡の中の僕の背後にいる影は、段々と僕に近づいてきているようだった。


 これが……カガミ様だ。はっきりとはわからなかったが、そうに違いない。


 僕はそう思って番田さん助けを求めるよりも、問題を解決することを優先することにした。


「カガミ様、お帰り下さい」……たった一言云うだけだ。問題ない。


 しかし……僕の口は固まってしまったみたいに動かなかった。


 そうこうしている間にも、鏡の中黒い影は既に僕の肩を触っていた。触られている感触はない……鏡の中の僕だけが触られているのだ。


 そして、黒い影はそのまま僕の顔の方に手……と思われる部分を伸ばしてきた。


 不味い……顔を取られる。そう思ったが、それでも僕は言葉を発することが出来なかった。


「黒須君! 何をやっているんだ! 大丈夫か!」


 番田さんの声が障子の向こうから聞こえる……鏡の中で、黒い影は僕の顔を触っていた。


 触られている感触はない……しかし、冷たい恐怖だけが僕の心を確かに支配していた。


 もうダメだ……何も出来ない。


 しかし、それと同時に、僕は手にしていたお守りを思い出す。


 そうだ……これで諦めてしまったら、黒田さんはどうなる?


 僕しか……僕しかこの問題を解決することができないのだ。


 そう思って、僕は口に力を入れた。すると、先程よりも口は動きそうな気配を見せた。


 しかし、鏡の中の黒い影は、撫で回すように僕の顔を触っている。


 言わなくちゃ……そう思って、言葉を発しようとした時だった。


「もういいよ。あの子の顔は、取れたから」


 聞き覚えのある妖しげな声が、耳元で聞こえた。


 それと同時に、僕の口は完全に自由になる。


「カガミ様! お帰り下さい!」


 自分でも驚くほどに大きな声で僕はそう叫んだのだった。

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