異常性
「えっと……それで、家の中にはどうやって入るんです?」
僕はそれが疑問だった。実際、いきなり突入というのもあまりにもいきなりすぎるし、さすがに何か考えがあるのだろうと思っていた。
「どうやって? 簡単だ。玄関から入る」
「……へ?」
しかし、番田さんは本気のようだった。なんの躊躇もなく、そのままカガミ様の敷地に足を踏み入れ、枯れ草を踏みつけていき、扉の前まで前進していく。
僕が呆気に取られていると、番田さんは既に扉の前までやってきてしまっていた。
「黒須君。早く来たまえ」
そう言われて、僕は我に返った。慌てて、番田さんが進んだ後をたどるようにして、カガミ様の家の前までやってくる。
「よし。では、入るぞ」
「え……ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
僕は思わず番田さんを止めてしまった。怪訝そうな顔で、番田さんは僕のことを見る。
「……なんだ。何か問題か?」
「だ、だって……いくらなんでもいきなりすぎじゃ……」
僕が完全にビビっていることを理解したのか、番田さんは安心させるように僕の肩をポンと叩いた。
「……大丈夫だ。この家は確かに不気味だが、家自体には何の力もない。問題なのは、化粧台の鏡だけだ」
そう言って、番田さんは一気に扉を押し開けるようにして開いた。実際、ボロボロの扉はまるで板が外れるかのようにして、いとも簡単に開いた。
家の中は、埃っぽく、もう何年、いや、何十年の間、人が入っていないようだった。
「気をつけろ床が腐っている可能性がある」
そう言って、番田さんは土足のまま家の中に上がる。僕も同様に、家の中へと足を踏み入れた。
家の中は……埃だらけな点を除いて、普通の日本の昭和の家、といった感じだった。廊下は確かに酷く傷んでいるようで、僕と番田さんが踏みしめる度に、ギシギシと悲鳴をあげていた。
「それで……鏡があるのは、どこの部屋なんです?」
「居間だ。まぁ、行けばわかる」
番田さんに言われるままに、前を進む番田さんの後を僕は付いて行った。既に夕暮れ時となってきた時間……家の中は完全に薄暗くなって、足元にも注意が必要だった。
「さて……そろそろだな」
番田さんはそう言って、歩みをゆっくりと止める。僕もそれに合わせるように、足を動かすのをやめていく。
それと同時に、目の前にとんでもない光景が見えてきた。
「……なんだ、これ」
僕は思わずそう呟いてしまった。
なぜなら、目の前に現れたのは、何枚もの……いや、何十枚、何百枚もの御札が貼られた異常な姿の古びた障子扉だったからであった。




