異形の家
白紙町の北側に入った僕と番田さんは、しばらく周囲を窺うことにした。
北側地域は、どうにも寂れているというか……人の気配すら感じられなかった。
もちろん、商店や飲食店なんかも見られない。
空き家らしい家々がひたすら続いているだけであった。
「……えっと、ここに住んでいる人って、いるんですか?」
僕が思わず質問すると、番田さんは苦笑いした。
「電気もガスも通っていない場所に住みたいという奇特な人間であれば、住んでいるかもしれないね。もっとも、ホームレスでさえここらへんには近づかないと聞くが」
「それは……やっぱりカガミ様の……」
「いや、カガミ様だけの問題じゃない。八十神語りに関係する全てのモノがこの場所にある。普通の人間は近づかないのが正解だ」
そう言われると、そんな危険な場所にいる僕と番田さんは一体どうなってしまうのかと思ったが、そり以上は何も聞きたくなかった。
それよりも、やはり、まるで別世界に来てしまったかのような不気味な雰囲気の北側地域への恐怖に負けないようにすることが、僕にできる精一杯のことだった。
僕と番田さんはそれから歩き続けた。すると、番田さんは一つの家の前でいきなり立ち止まった。
僕もそれと同時に立ち止まる。しかし、それから僕は思わず言葉を失ってしまった。
「ここが、カガミ様の家だ」
番田さんに言われなくても理解できた。その家は、明らかに他の家とも雰囲気が異なっていた。
庭の草木は枯れ果てて、荒れている。そして、窓のガラスも割られていて、完全に空き家……というよりも、廃墟という感じだった。
しかし、ただの廃墟ならばいいのだが……そこから感じられる雰囲気は尋常ではなかった。
まるで家の中から瘴気が溢れているような、とてつもなく不気味で、邪悪な感じがするのだ。
霊感がない僕でさえ、その家が危険であることは十分に理解できた。
「……入るんですか。この家」
僕は思わずそう訊ねてしまった。すると、番田さんは僕がそう質問することを予期していたかのようにニヤリと微笑んだ。
「ああ。そう言うと思ったから、ほら。これを持ってくれ」
そう言って、番田さんは懐のポケットから何かを取り出した。
それは……小さなお守りだった。お守りには金色の刺繍で「紅沢神社」と書かれている。
「……これは?」
「紅沢神社のお守りだ。それを持っていないと、おそらく鏡を見た瞬間にカガミ様に顔を取られてしまう。だから、君が持っていてくれ」
淡々とそう言う番田さん。僕は思わずその小さなお守りをまじまじと見つめる。
こんな小さなお守りが、果たして僕をちゃんと守ってくれるのだろうか?
「なんだ? そのお守りでは、不安か?」
「え……そ、そんなことはないですけど……」
「大丈夫だ。お守りの中には、君が守りたい人の一部が入っている。怖くなったら、そのお守りに頼るんだ」
そう言って、番田さんはカガミ様の家の玄関の方に向かっていった。どうやら、いよいよ行かなければ行けない時らしい。
「……黒田さん。僕……なんとか頑張ってみるよ」
お守りをギュッと握りしめ、僕は番田さんの後を付いて行った。