北へ
それから、僕と番田さんは町の北側へと向かっていった。
確かに、番田さんの言う通り、北側というのは……あまり僕も行った記憶がなかった。
というより、やっぱり行ったことがないと思う。
なんというか……近づいてはいけない地域っていうのは、そういうことなのだろう。自然と足が遠のいてしまう地域……なのだと思う。
「そろそろ、旧地域……北側に入るぞ」
番田さんに言われて僕は我に返る。
ふと、道の横を見ると小さなお地蔵様があった。
そして、目の前には、なんだか見えない壁があるかのような……どことなく、その先に進むのを躊躇ってしまうような感覚があった。
「……えっと、番田さん、これは……」
「ああ。境界の目印……のようなものだな」
番田さんはそう言って何事もなかったかのように北側への境界を跨いだ。
僕も、それに続く。
実際、跨いだからといって何かが変わるというわけではなかった。
ただ……不安だった。
漠然とした不安が、僕に襲ってきたのだ。
「え、えっと……大丈夫、なんですかね?」
「ん? 何がだい?」
「な、何がって……ここ、入って良かったのかな、って……」
僕がそう言っても、番田さんはキョトンとした顔で僕を見る。
すると、しばらくして、なぜか合点がいったように頷いた。
「この地域の人間しか理解できないのだろう。その不安は。私は特に何も感じないが」
「え……そ、そうなんですか」
「ああ。さて、このままカガミ様の家に行くが……大丈夫か?」
番田さんは一応心配はしてくれているらしい。僕は少し戸惑ったが、脳裏には、あの辛そうな黒田さんの様子が思い出された。
こんな所で、立ち止まっている訳にはいかない……できることをすると、黒田さんには誓ったのだ。
「……はい。行きましょう」
僕が決意をしたことを確認すると、番田さんは今一度歩き出し、僕はその後を付いて行った。




