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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第二神
24/200

手順

「え、えっと……コーヒー一つ」


 愛想がまったくない店長にそう注文し、僕は今一度テーブルに付いた。


「その……番田先生は――」


「いや、番田さんで結構だ。先生ではないからな」


 苦笑いを浮かべながら、番田……さんはそう言った。


「え……えっと……番田さんは、八十神語りを研究しているんですか?」


「ああ。誰もしていない八十神語りを研究している……いわば、第一人者のようなものかな」


 そういって、番田さんはコーヒーに口をつける。


「……もっとも、誰も研究していないなら、学会でも全く認められない研究だ」


「え……じゃあ、なんで……」


「……興味深いから、かな」


 そういって、番田さんは腕を組んで僕のことを見る。その鋭い眼光に、僕は思わずたじろいでしまった。


「君は、この町の出身者だろう?」


「え? そ、そうですけど……」


「やはり、か。名字で分かる」


「え? 名字?」


 僕が尋ね返すと、番田さんは深く頷いた。


「白紙町……いや、正確には、白神村しらかみむらの住人は全て色の着く名字を名乗っていた。これは私が長年の研究で得た一つの成果だ」


「え……白神村、って……」


 僕がそう言うと、番田さんは目を丸くする。


「なんだ。知らなかったのか。この町の昔の名前を」


「え、ええ……しらかみ、ってことは……」


「ああ。白神村は白神さん……いや、シラカミ様の村だったんだ」


 番田さんの言葉を聞いて、僕は何も言えなくなってしまった。


 ちょっと待て……シラカミ様ってなんだ? 白神村もそうだが……一体どういうことなんだ?


「……つまり、白神さんは、神様なんですか?」


「いや、難しい所だが……そうではない」


 そういって番田さんは難しい顔をする。そういって、机の上にあった資料の一つを手に取る。


「これを見てくれ」


 そういって、僕に資料を手渡してきた。


「……これは?」


「歌だ。八十神語りに関係するらしい」


 その歌の歌詞を見て、僕は目を丸くしてしまった。


 「やそがみきたりて」から始まるその歌。


 その歌はまぎれもなく僕がこの前、夜の闇の中で聞いた白神さんの歌の歌詞のまんまだったからだ。


「……その反応だと、その歌に何か心あたりがあるんだな」


 番田さんにそう言われて僕は我に返る。


「この歌……なんなんですか?」


「その歌は八十神語りの手順を示している。最初の歌詞『いちがみきたりて』に続くのは『かみひかれん』という言葉……これは、ウシロガミ様のことだ」


 そう言われて僕は今一度歌の歌詞に目を通す。


「……『ふたがみきたりて』後に続くのは『かみむかえん』……じゃあ、これは……」


「ああ。カガミ様のことだな」


 番田さんはそう言ってカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。


「カガミ様を招いてしまった以上、放っておけば神様に迎えられる……つまり、神様に連れて行かれてしまうんだ」


「え……そ、それじゃあ……」


 僕が言い終わらない間に、番田さんは立ち上がっていた。


「そうだ。だから、今から『カガミ様の家』に向かうんだ」

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