黒の異端者
そして、次の日。
幸い、次の日は日曜日だったので、僕は朝から電話を待っていた。
それにしても……八十神語りに詳しい人物って……どういう人なんだろうか。
そもそも、黒田さんのお爺さん以上に八十神語りに詳しい人なんて、果たしているのか……僕にはそれが気になった。
しばらく電話を待っていると、11時くらいになって電話が鳴った。
「あら、電話ね」
「あ、母さん、その……僕が出ていい?」
母さんが電話に出ようとする前に、僕は受話器を取っていた。母さんは面食らっていたようだったが、僕はそのまま電話に出る。
「はい。黒須です」
「黒須、賢吾君だね?」
……あれ? 黒田さんのお爺さんの声ではない。もっと若い男性の声だ。
「は……はい。そうですけど」
「私は、番田宗次郎。紅沢神社の神主から話は聞いていないか?」
「番田……さん?」
いきなりのことに僕は戸惑ってしまった。
「ああ。八十神語りの件だ」
「あ……それじゃあ、黒田さんのお爺さんが言っていた八十神語りに詳しい人って……」
「そうだ。私がその詳しい人物だ。さっそくだが、君、今から駅前の喫茶店に来られるか?」
「え? 今から、ですか? まぁ、大丈夫ですけど……」
「そうか。では、15分後に来てくれ。駅前のテンプルという喫茶店だ」
そう言って、電話はいきなり切れた。番田宗次郎……紅沢神社のことを知っていたし、どうやらお爺さんが言っていた人で間違いではない……らしい。
それでも少し半信半疑だったが……とにかく行ってみないことには始まらない。
「母さん。僕、ちょっと出かけてくる」
「え? そうなの? お昼ごはんは?」
「大丈夫だよ。自分でなんとかするから……じゃあね」
完全に置いてけぼりにされている母さんを他所に、僕はそのまま家を出た。
そのまま駅前に直行する。喫茶店テンプル……場所は分かっているので迷うことはない。
駅前の寂れた商店街の、さらに寂れた店……それが、喫茶店テンプルだ。
僕はゆっくりと喫茶店テンプルの扉を開く。
もちろん、こんな店、閑古鳥が常に鳴いている状態だ。人は1人も……
「あ」
いた。
店の奥に、黒いスーツ姿の男性が1人座っている。
僕は恐る恐るその男性に近寄っていく。男性はテーブルに、所狭しと何かの資料を広がているようだった。
「あ……すいません」
資料を読んでいた男性は、僕の声でこちらを向く。
どことなく不健康そうな表情、白髪のところどころ混じった黒い髪……それでいて鋭い眼光の男性だった。
「やぁ。君が、黒須賢吾くんだね」
そう言って、男性は僕に握手を求めてくる。
「え……ええ。アナタは……」
僕はそれに応えながら男性に訊ねた。
すると、男性はうっすらと笑みを浮かべた。
「私は、番田宗次郎。この町に伝わる八十神語りという儀式に関する研究者だよ」




