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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
エピローグ
200/200

白神さんの八十神語り

※今までの話を読んで、八十神語りは終わったのだと思う方はこの話は読まないで下さい。八十神語りが本当に終わったのかどうか、知りたい方だけこの話を読んで下さい。

『次のニュースです。白紙町役場の職員、灰村華さんの行方は、未だにわかっておりません。灰村さんの最終目撃情報は、町の北側での目撃が最後となっております。もし、灰村さんに関する情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、番組まで御連絡下さい。では、次のニュースです。「白髪殺人事件」の容疑者ですが、こちらに関しても、未だに行方が詳細にわかっておりません。警察は引き続き捜索を続けており、全国指名手配も考慮しているとのことです。次は天気予報です――』


 白紙町のビジネスホテルの一室で、番田宗次郎はそんな地方番組のニュースを聞いていた。


 灰村……彼が思い出すのは、あの廃墟での一件、そして、八十神語りである。


 既に八十神語りからすでにそれなりの時間が経過しようとしていた。


 自分は八十神語りに関して、最後まで傍観者であった。


 関わっていたのはこの町の少年と、自分が後見人を務めている少女……そう考えると、なんとも役に立たない大人だったな、と番田自身思えてきてしまった。


 彼が白紙町に戻ってきた理由は特になかった。論文も書き終え、番田の中で八十神語りは調査終了の案件となった。


 無論、自分の知り合いの少年と少女に会いに行くことも考えたが……


 自分は彼らにとってあまり良い大人ではなかったし、八十神語りを終えて平和に過ごしている彼らの邪魔はしたくなかった。


 番田はとりあえずホテルを出ることにした。何もない白紙町……しかし、番田にはどうしても確信しておきたいことがあった。


 ホテルと出て、番田はそのまま町を歩く。


 普通の町だ。かつて八十神語りのような狂った儀式があったなんて、おそらく誰も信じてくれないだろう。


 しかし、八十神語りは実在した。そして、自分はその全貌を把握することが出来た……


 だが、どうしてか、未だにどこかすっきりしないのである。まるで何かをまだ見落としているような……というよりも見ないフリをしているかのような……


 番田は自分がどこに向かっているかは理解できていた。町の北側……全ての根源である。


 十分ほど歩けば、すぐに北側の入り口……番田自身がかつて境界といった場所にやってきた。


 既にそこは蛍の言うことが正しいならば、結界が張ってあるはず……もう、怪異はこの北側から漏れ出してこないはずである。


 そのはず……なのだが。


「番田さん」


 番田の背筋に鳥肌が立った。背後から聞こえてきたのは……あまり聞きたくない声だったからである。


 番田はゆっくりと振り返る。そこには……


「……やぁ、黒田君か」


 黒田琥珀……かつて、八十神語りの実行者として、そして、白神さんの依代となっていた少女がそこにいた。


 以前と同じく制服姿で長い黒い髪……表情は穏やかだった。


「どうしたんですか? こんなところで……黒須さんは、アナタがここにいること、知っているんですか?」


 そう言われて番田は苦笑いしながら応える。


「あはは……いや、蛍君にも黒須君にも言っていないよ。ここには……ちょっと気になることがあったから来たんだ」


 番田がそう言うと琥珀は嬉しそうに微笑んで番田を見る。


「あぁ……八十神語りが、本当に終わったのか、それを確かめたいんですね?」


 まるで自分の心が見透かされているかのようだった。番田は肯定するわけでもなく、ただ、琥珀のことを見ていた。


「……率直に聞こう。君なら……終わったかどうか、明確に言えるんじゃないか?」


 番田がそう言うと琥珀はクスクスと嬉しそうに嗤う。


 それはまるで、愚かな人間を神があざ笑っているかのような……明確な嘲笑だった。


「……番田さん。考えても見て下さい。この町で八十神語りは延々と続いてきたんですよ? それが唐突に終わってしまったら、せっかくの伝統が台無しじゃないですか?」


「なっ……し、しかし、蛍君はもう大丈夫だって……」


 番田がそう言うと蛍は鋭い目つきで番田を睨みつける。


「あの女は大丈夫、って言っただけでしょう? ……本来ならば八十神語りは成功して、私は賢吾と一緒に死ぬはずだった……でも、同じことは二度とはできない。だから、私は賢吾にも、あの忌々しい女にももう手出しはできない……そういう意味で大丈夫、ということです」


 すると琥珀は今までの穏やかな表情と一変して、まるで獲物を狙う蛇のように番田の事を見る。


 番田はそれこそ、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。


「……ちょっと待て……じゃあ、町の北側には……もう何もないのか?」


「ええ……この先にいるのは、神になり損ねた化物だけです。たまに招かれる人もいるでしょうが……もう何もありませんよ」


 すると琥珀は番田に興味が薄れたのか、冷淡な表情を浮かべたままでそのまま背を向ける。


「……もうこの町には来ないで下さい。アナタだって、来たくないでしょう?」


「ま、待ってくれ! 私はこの町に……八十神語りに関して今の今まで必死に研究してきたんだ! だからこそ、知りたい! 一体八十神語りは……白神さんはこれからさきどうなって――」


 そこまで言って番田は気付いた。琥珀の髪が……変色し始めているのだ。


 それまで綺麗な黒い髪であったのに、毛先の方から、まるで白いペンキを垂らしたかのように……徐々に白くなっていっているのである。


『……そんなに知りたいのかい? それなら、わかりやすく教えてあげることのできる話があるんだ。さっそく今からその話を教えてあげよう』


 番田に背を向けている琥珀の声は……もはや琥珀のものではなかった。


 番田はそこでようやく理解した。蛍のどこか諦めたような態度……そして、自分が直感的に気付いていた危険性……


 そう。八十神語りも白神さんも……そもそも、部外者が触れてはいけない禁忌だったのだ、と。


 番田が動けない間に、琥珀の髪は真っ白に変色していた。それはもはや黒田琥珀の後ろ姿ではなかった。


 そして、琥珀……ではない真っ白な白髪の「何か」は番田の方に振り返って、こう言った。




          『さぁ……八十神語りを始めようか』

これで、八十神語りに関する全ての話は終わりです。


あくまでもう一つのエンドということで、ホラー話っぽいエンドにしてみました。


ただ、黒須君と蛍さんの話はすでに終わっていること、そして「白神さん」本人が黒須君と蛍さんには手を出さないと言っているので、主人公とヒロイン的にはグッドエンドなのかもしれません。


というか、番田さんが今まであまりにもノーリスクすぎたので、この話ではこういう役を引き受けてもらいましたw


なんだかんだで一年、なんとか完結という形まで続けることが出来ました。これも感想をいただけたおかげです。ありがとうございました。

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