対策
結局、僕とお爺さんが、半ば強制的に黒田さんを連れ帰るという形で、紅沢神社に辿り着いた。
紅沢神社に辿り着いたあたりから、黒田さんの症状も治まってきた。
「黒田さん……大丈夫?」
鳥居をくぐった当りで、僕は黒田さんに訊ねる。
すると、酷く怯えた様子で、黒田さんは僕を見た。
「……はい。ごめんなさい。大丈夫です」
そうは言っても、黒田さんは完全に参ってしまっているようだった。
とにかく、神社内の家の中に入り、黒田さんを落ち着けた方が良さそうだった。
しかし、家の中に入ると、黒田さんはそのままフラリと倒れてしまった。
「黒田さん!」
僕は思わず黒田さんの肩を抱き起こす。
「……気絶しただけです。相当、辛かったのでしょう」
お爺さんが辛そうな顔でそう言う。
「……お爺さん。なんで、こんな……」
僕がそう言うと、今度はお爺さんが黒田さんの身体を抱き起こす。
「……申し訳ありませんが、黒須さん。琥珀を……背負っていただけませんか?」
「え? あ……はい」
お爺さんに言われるままに、僕は黒田さんを背負うことになった。よく考えて見れば、相当恥ずかしいことだと思っただけれど……言われてしまった以上、断ることはできなかった。
仕方なく、僕は黒田さんを背負ったままで、お爺さんの後ろを付いて家の奥へと入っていった。
「ここが、琥珀の部屋です。どうぞ」
お爺さんは躊躇わずに部屋の扉を開け、中へ入っていく。正直、入っていいものか悩んだが、廊下で突っ立っていても仕方ないので、僕も部屋の中に入った。
「え……ここが?」
黒田さんの部屋と言われて僕は思わず驚いてしまった。ベッドの上には、たくさんのぬいぐるみがあって……いかにも、普通の女の子って感じの部屋だったのだ。
「フフッ……驚きました? 琥珀は……普通の女の子ですよ」
お爺さんは苦笑いしながらそういう。僕も、曖昧に笑ってそれに返した。
「……さぁ。琥珀をベッドに寝かせて下さい」
言われるままに僕は黒田さんをベッドに寝かせた。黒田さんは完全に眠っているようで、僕の背中から下ろしても起きる気配はまったくなかった。
「……さぁ、こちらへ」
お爺さんは黒田さんがベッドに横になったのを確認してから、部屋を出た。僕も部屋を出ることにした。
その際、一度だけ黒田さんの顔を見た。やはり、眠っていてもどことなく苦しそうな……見ていて辛い表情だった。
「さて……黒須さん。少しお話があります。お時間、大丈夫ですか?」
そう言われて僕は腕時計を見る。既に午後六時を回ろうとしていた。
「……親には、紅沢神社にいるって、電話だけしていいですか?」
「はい。どうぞ。電話が終わりましたら、客までお待ちください」
お爺さんはそういって、家の奥へと入っていってしまった。
僕は、とりあえず、携帯で家に電話をした。電話に出た母さんは少し不機嫌そうだったが、おそらく父さんから聞いていたのか、紅沢神社の名前を出すと、渋々、僕が遅くなることを承諾してくれたようだった。
そして、僕は前に通された書斎で、お爺さんを待った。本がずらりと並んだ書斎で待っているのはなんとなく気まずかったが、しばらくすると、お爺さんがやってきた。
「どうぞ。お茶です」
「あ……すいません」
出されたお茶を口に運んでから、僕はお爺さんの方を見る。
お爺さんも、僕のことをジッと見ていた。
「……さて、さっそくですが、カガミ様に対する対策……これは、非常に申し訳ないのですが……黒須さんにやってもらう他、ないと思われます」
「……え?」
お爺さんの口から出てきた意外な言葉は、瞬時に僕を、絶望へと追い詰めるものなのであった。




