神様のいる町
私は一度、ホテルに戻った。
ホテルに戻って「仕事道具」をとってくる必要があったのである。
もちろん、仕事道具が入っているバッグは、見た目はただのスーツケースだ。
中には瓶に詰めた白いペンキ……そして、今までのコレクションが入っている。
コレクションといっても、殺した女達の髪を白いペンキで塗ったもの……しかし、あの女を殺せば、そんなまがい物はもう必要ない。
アイツの白い髪こそ、私が探し求めていた物……私はポケットに隠したナイフを思わず触ってしまう。
問題はタイミングだ……抵抗されるのは私の趣味ではない。
一瞬で終わらせる、それが私のモットーだからだ。
既に夜になってしまっていたが、私は先程と同じ道を行って、町の北側の入り口にやってくる。
そこには……
「お待ちしておりました」
白髪の女が立っていた。私は高ぶる気持ちを抑えて女を見る。
「いえいえ。わざわざアナタのような美人に迎えに来てもらうとは……光栄です」
「フフッ。お上手ですね。では、私の家にご案内致します」
そう言って女は歩き出した。私もその後に続く。
相変わらずの雰囲気……やはり、ここは異常だ。
そして、私の前を歩く黒い服の女も。
「アナタ……知っていますか?」
「え? 何をです?」
女は振り返らずに、いきなり私に話しかけてきた。
「この町には、神様がいるんですよ」
「神……ああ、神社のことですか」
私がそう言うと女は立ち止まる。そして、笑顔でこちらに振り返った。
その笑顔は……とても邪悪だった。
目を細めて、まるで私のことを舐め回すように見つめている。
「違います。本当の神様です」
「本当の……神?」
「はい。この町には今も神様がいるんです。だから……定期的に、生贄が必要なんですよ」
「生贄……ハハッ。そんなオカルトな……」
私はそう言ってみたが……女は至極真面目な様子だった。
おかしな女とは思っていたが……やはり、おかしいようである。
暫くの間、私と女は向かい合ったままだったが……女は歩き出した。
「家までもうすぐです。行きましょう」
女は歩き出した。私もそれに続く。
……神様。
そういえば、祖父や祖母も同じような事を言っていたような気がする。
この町の神様には、近づくな、と。
しかし、よく考えれば神様には近づくな、というのもおかしな話だ。
神は超常的な存在である。ならば、人がそんな存在に近づくことができるものだろうか。
ということは、この町の神様というのは、そのままの意味ではなくて、もっと、別な……
「どうしましたか?」
いきなり女が話しかけてきた。私は、我に帰る。
「あ、ああ……すいません。行きましょう」
……今更何を考えているのか。
既に私は七人も人を殺めている。
例え、これから地獄が待っていようとそれは当然の報いだ。
そう考えれば怖いものなど何もない。私はそう思い、今一度ポケットの中のナイフに触れたのであった。




