あの場所への参拝
私は町の北側を目指した。道を行く途中、この町での幼少時代を思い出した。
祖父や祖母からはよく、私の一族は特別だということだけを聞かされた。
そして、この町には神様がいるという話を何度も聞いた。
「神様……か」
小さな頃は理解はできなかったが……今なら何となく分かる。
私の中にあるこの不思議な感覚……それはある意味超常的な……霊的な類に関係のあるもの、なのかもしれない。そう感じるからだ。
そして、程なくして町の北側……その入口らしきところに来た。
入り口……というのもなんだか変な表現だが、そう感じたのである。
道の横を見ると、小さな地蔵がある……なんとなくではあるが、ここが「境界」であることが理解できた。
私は北側への一歩を踏み出す。その瞬間、またしても私の中で不思議な感覚がざわつく。
そして、確信した。
私が求めているものは、間違いなくこの場所にあるのだ、と。
「……とにかく、神社を目指すしよう」
まるで何かに導かれるかのように、私は道を歩いて行く。その先に神社があることを、私は確信している。
それにしても……異常な場所だ。私は既に人間を七人殺しているからわかるが……この場所には怨恨や憎悪が蠢いている。
人を殺す時にはそういう感情が、凶器を伝って私の中に入ってくる……その時と同じ感覚が、常にこの場所には溢れているのだ。
「……ここだな」
そんな感覚に酔いしれながら、私はついにたどり着いた。
目の前には石段……この先には間違いなく私が求める感覚が存在する。
そして、同時に私は理解した。その感覚を知るということは……私の人生にとって、非常に危険なのだとうことも。
私は石段を歩き始める。周りを見ても、他には参拝者はいないようだ。
それにしても……さっきのガキ共……色々と知っているようだった。
もしかすると、アイツらもこの場所に来たのではないだろうか。
特に、男の方……尋常じゃない恐怖をしていた。まるで、一度閉じたパンドラの箱を、私がもう一度開けようとしている……それを恐怖しているような顔だった。
それに……
「……どうにも、他人に思えないのだよな」
女の方はともかく……男の方はそれこそ知り合いのような感覚だった。まるで遠い昔は同じ場所にいたかのような……
そんなバカげたことを考えながら私は石段を登りきった。
鳥居をくぐり、境内へ進む。と、私はあることに気付く。
「……ない」
神社は……なかった。正確には目の前にあったのは残骸である。どうやら火災でもあったようで、焦げた材木だけが無造作に積み重なっている。
神社がない……私にとってはショックな出来事だった。神社を見ればきっとあの不思議な感覚を味わえると思ったのに……
「あら。珍しいですね。こんな場所に人なんて」
と、声のした方に私は瞬時に振り返る。
そこには……人がいた。女だ。
ただ、その容姿は不思議だった。
短く切りそろえた白髪……そして、まるで葬式に行くかのような真っ黒な着物……その女は不敵に微笑んでいた。
「参拝ですか? 残念ですね。もうこの神社、ないんですよ」
女がそういうのを聞いている間にも、私は確信していた。
コイツだ……コイツが私の探していた感覚を味わわせる事ができる女だ、と。
そして、もう一つ、私は決意した。
間違いなく、この女を、八人目の犠牲者にしてやるのだ、と。