感覚を求めて
白紙町に戻ってきてから数日経っている。
私は町のビジネスホテルに籠りきりだった。しかし、どうやらこのままでは何もわからないことが、なんとなくわかってきた。
そこで私は町に出ることにした。どうせ、こんな小さな町まで捜査の手が及ぶのは時間がかかる……だから外に出ることにした。
スーツに着替え、私は受付で手続きをし、とりあえずホテルを一度出る。
「……それにしても、記憶の通りだ。何もない……つまらない町だ」
白紙町……何もない寂しい町。
私の生まれ故郷……思い入れは何もない。だが、生まれ故郷ではある。
ただ、何もない町では有るのだが……なんとなく、不思議な感じのする町だ。
その不思議な感じというのは、私自身の中にある不思議な感覚と一致する……つまり、この町の不思議さの正体がわかれば、私自身の感覚も理解できるはずなのである。
私はホテルから暫く歩き、ふと足を止める。
「そういえば……神社。そうだ、神社があったはずだ」
不意に私はそう思いだした。神社……私は幼い頃、その神社に行ったことがある。
そこで……何かに出会った。何か……人のような、人ではないような……
とにかく、神社に行きたい……私はそう思った。
「えっと……それで、今日は黒田さんは白神神社ですか?」
「らしいよー。巫女としての役目だから、って……まったく……ホントに大丈夫かな~」
「え、えぇ……蛍さん……ホントに大丈夫なんですか?」
……白神神社。そうだ。その名前。
見ると、私の前方から二人の高校生らしき男女が歩いてくる。
「あ……なぁ、君達」
私は思わず話しかけてしまった。あまりにも不審者感満載ではあるが……聞かずにはいられなかったのである。
「え……な、なんですか?」
少年の方が不思議そうな顔で私のことを見てくる。
「ああ、すまない。突然。私は旅行者なんだが……今口にした名前……その、白神神社という神社は……どこにあるんだ?」
いきなりこんなことを聞くのもどうかと思ったが……聞いてしまった。少年は戸惑っている……少女の方は怪訝そうな顔で私を見ていた。
「あ……えっと、ですね。白神神社はこの先の――」
「おじさん。アンタの探しているのは……北側の方でしょ?」
と、少女は鋭い声でそう言った。北側……そうだ。神社は北側にあった。
「あ、ああ……そうか。北側だったか。よく覚えてないが……」
「覚えている? おじさん、旅行者じゃないの?」
「え……あ、ああ。すまない。久しぶりにこの町に帰ってきたんだ。旅行者同然のようなものという意味だよ」
私がそう言うと少年と少女は顔を見合わせる。そして、少年の方が不安そうな顔で俺を見る。
「えっと……アナタは、この町の出身なのですか?」
「ああ、そうだ。それが……何か?」
私がそう言うと少年は少女の方を見る。
「……おじさん。悪い事は言わない。さっさとこの町を出ていったほうが良いよ」
少女は突然そんなことを言った。私もさすがに戸惑う。
「え……なぜだ? 何か不味いことでもあるのか?」
「……おじさんさぁ。名字に色を表す文字が入ってない?」
「え? 色……あ、ああ。私の名字には色が入っているな。なぜそれを……?」
そう言うと少年の顔が恐怖に引きつる……少女の顔も嫌そうに歪んだ。
なんだ……この少年と少女は何かを知っている……
それはおそらく私が知りたいあの不思議な感覚に関係のあること……
「……すいません。僕達もうこれ以上は……」
少年の方が切り上げようとしている……ダメだ。ここでこいつらに話を聞いておきたい。
「……待ってくれ。一つだけ教えて欲しい。私は……どこに行けばいいんだ?」
私がそう言うと、少女の方が鋭い瞳で私を睨む。
その瞳には強い憎悪が含まれていた。
「……町の北側。でも、アンタが行く場所じゃない。絶対に行っちゃ行けない場所」
それだけ言うと、少女は少年の手を引いてそのまま去っていってしまった。
町の北側……なるほど。やはり北側に、私が探す答えがあるらしい。
「……それならば、行くとするか」
それにしても、不思議な感覚は続いている。
そもそもなぜ神社……神社に何があるというのか。そもそも私は信心深い人間でもない。
大体神様なんてものがいるのならば、とっくに私は天罰を受けているはず……それなのに、私は生きている。多くの女性を殺した私が。
「もしかすると、天罰が当たる……そういうことなのかな?
一人でそうつぶやきながら、私は町の北側に向かうことにしたのだった。