もう一人の末裔
『次のニュースです。先月から発生している女性連続殺人事件、いわゆる「白髪殺人事件」に関してですが、容疑者は未だ不明であり、逃走を続けている模様です。警察は女性が深夜に一人で外に出歩くことに関して強く注意を呼びかけています。皆様もくれぐれも夜は一人で出歩かないようにして下さい』
テレビから聞こえてくるニュース。既に何度も聞いたことのあるニュースだ。
「白髪殺人事件」……安直なネーミングである。
既に七人の女性が被害にあっている。殺害されたのはいずれも美しい長い髪の女性……殺した後で、犯人は女性の髪を白く塗った。
なんで塗ったのか……犯人自身もよくわかっていない。ただ、白く塗らなければいけない気がしたのだ。
それに七人の女性を殺しても……未だに終わりではない気がする。
後一人……後一人殺せば何かがわかりそうな気がするのである。
「……フッ。果たしてそうなのかな」
私はそう言って一人自嘲気味に笑いながら、そう呟いた。
『次のニュースです。同じく、先月から行方不明になっている白紙町町役場の女性に関する事件ですが――』
私はテレビの電源を切った。そして、ベッドに横になる。
青柳光明。それが私の名前だ。
既に7人女性を殺している……殺人犯である。
しかも、殺した女性の髪の毛を、殺害後、白く染め上げる……そんな奇怪な行為を繰り返している。
ニュースでは私のことを頭がおかしいとか、異常者だとか……繰り返しそんなことを言われている。
私自身おかしいと思う。どうかしているとも思う。
ただ、それ以上にやらなければいけない……そんな不思議な感覚が私の中にあるのだ。
それは小さい頃……この白紙町に住んでいた頃からずっとそうだった。
白髪の女性、そして、「八」という数字……家族が逃げるようにこの町から引っ越した後も、ずっと私の中になぜだか不思議な感覚は残っていた。
そして、ある日……私は抗えなくなった。抗わず、素直にその不思議な感覚に従った。
気づけば私は、女性を殺害していた。殺した女性の髪は黒く美しかった。
私はその髪を……白く染め上げたくなった。いや、白くしなければいけないと思ったのだ。
最初の殺人の時は、女性の台所にあった小麦粉を髪にふりかけた。しかし、あまり美しくならなかった。
だから、次の殺人からは白いペンキを常備するようにした。
女性を殺害した後、髪を白く染め上げる……髪が白くなった女性を見ていると、不思議な感覚は、なぜだかとても満たされたのだった。
私はもう一つの不思議な感覚……「八」という数字を目指した。
ようやく……漸くここまで来た。
しかし、既に司法の手は私の寸前にまで迫っている。
それならば、私は理解したかった。
私自身の中にある不思議な感覚の正体を掴むために……私はこの白紙町に戻ってきたのである。