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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
187/200

帰ってきた日常

「賢吾ー。早く起きなさい。遅刻するわよ!」


 母さんの声で僕は目を覚ます。そして、慌てて朝食を食べ、そのまま玄関から飛び出る。


 遅刻……するほどでもないが、少し遅れてしまった。僕は早足でそのまま学校に向かう。


 結論から言うと、八十神語りは……完全に終了した。


 既に白神神社での一件からすでに2、3週間ほど経っているが……特に問題はない。


 無論、蛍さんからもらったお守りと十字架はいつも肌身離さず持っている。


 それは……蛍さんと別れるときに約束したからである。


 蛍さんと番田さんは一件が終わると共に、白紙町を去っていくことになった。


 白神神社での一件が終わった後、喫茶店テンプルで全てを話すと、番田さんはとても興味深げに聞いていた。


 その数日後、番田さんと蛍さんは僕に別れを告げた。


 番田さんは、必ずこの町のことを論文にまとめてみるとかなり意気込んでいた。


 その時に蛍さんは僕に必ずお守りを持っているように、と言った。


 蛍さん曰く、八十神語りの脅威は去った……しかし、この町には未だに、完全には除去できない脅威があるというのだ。


 無論、それに関わることはないだろうし、その脅威に惹かれるのは一定の人間だけだから大丈夫と言ってくれたが……


 あまり僕はそれには深く関わりたくなかったので、それ以上は聞かないでおいた。


 そして「必ずまた会いに来る」と言っていた。


 この町はかなり辺鄙なところにあるので交通も不便だと思うが……なるべくなら会いに来てほしかった。


 でも……たぶん蛍さんのことだから、本当に会いに来るだろう。どんな手を使ってでも。


「黒須さん」


 と、そんなことを考えていると背後から声が聞こえてきた。


「ああ……黒田さん」


 長い黒髪に、優しげな瞳……そこには、僕の知っている黒田琥珀が立っていた。


「おはようございます。フフッ……少し遅刻気味ですよ?」


 優しげにそう笑う黒田さんを見ると、僕は本当に平穏が戻ってきたのだと実感する。


 黒田さんはお爺さんの死去により、完全に天涯孤独になってしまった。そこで、番田さんが一応後見人として色々と面倒を見てくれるとかって出てくれた。


 もっとも……たぶん、番田さんくらいしか、こういうことをしてくれそうな人は思い当たらなかったが。


「黒田さん……最近は、大丈夫?」


 思わず僕は訊ねてしまう。すると、黒田さんは目を丸くして僕を見る。


「ええ……心配してくれるんですか?」


「え……そ、そりゃあね……でも、大丈夫ならいいんだけど」


 そう言うと黒田さんは嬉しそうに目を細める。


「……大丈夫です。こうやって黒須さんと会話しながら登校できているんです。大丈夫ですよ」


 黒田さんにそう言われるのは嬉しいのだが……どうにもまだ僕は白神さんが取り付いていた時の表情を思い出してしまう。


 それでも、やはり黒田さんがこうして元に戻ってくれて嬉しかった。


 そして、なんとか遅刻せずに僕と黒田さんは学校についた。


「じゃあ、黒須さん。また、放課後」


「うん。じゃあね」


 そういって僕と黒田さんは別れる。教室に行けばいつも通りの日常……まるで八十神語りなんて存在しなかったような……そんな平和ささえある。


 とにかく、僕は机につき、窓の外を見る。この白紙町……僕の知らなかった秘密がたくさんあった町、そして、僕自身も……


「はーい。じゃあ、今日は最初に、転校生を紹介するぞ」


 と、教室に入ってきた先生はいきなりそんなことを言ってきた。転校生……あまりにも変な時期にやってくるものだけど……そんな転校生って……


「じゃあ、入って」


 先生がそう言うと教室の扉が開く。


 そして、教室に入ってきたのは、褐色の肌に、金色の髪……どうにも、この町にはまず合わないような風貌の少女だった。


「ちーっす。番田蛍でーす。都会からこの町来たんでー、かなりギャップに動揺してまーす。まぁ、とりあえず、ヨロシクー」


 唖然とするクラスメイトを他所に、蛍さんは僕の方を見る。そして、軽くウィンクした。

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