巫女の戦い
僕は少しずつ黒田さんに近づいていく。
既に下半身は……蛇ではない。人間の姿だ。髪も綺麗な黒に戻っている。
しかし、黒田さんは……怯えていた。
そして、黒田さんと僕の距離は1メートルもないというところまで僕は近づいた。
と、黒田さんが何か言っているのが聞こえてきた。僕は耳を済ませる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
黒田さんはしきりに、そして、永遠とそう呟いている。何に謝っているのか、そして、何を謝罪しているのか……僕には痛いほど理解した。
話しかけるのは戸惑ったが……話しかけなければ何も変わらない。
「……黒田さん!」
僕は意を決して黒田さんの肩を叩く。黒田さんは怯えた様子で僕を見る。
「く、黒須……さん……わ、私……」
「……もう……いいんだよ」
僕がそう言うと黒田さんは周りを見てから、今一度僕の方を見る。そして、僕が何を言ったか理解してくれたようだった。
「……おわり……おわったん……ですよね?」
そう言われてから、僕は今一度、蛍さんに持たされた塩の皿があったはずの場所を見る。
塩は……辺り一面に散乱していたが、月の明かりに照らされて真っ白に光っていた。
それこそ、あの人の白い綺麗な髪のように……
「うん……終わった」
そういうことで、僕も安心した。黒田さんは僕の方に手を伸ばしてくる。
「……ごめんなさい。私……立てません」
「あ、ああ……掴まって」
そういって、僕は黒田さんに手を伸ばす。黒田さんはその手を……掴んでくれた。そして、なんとか黒田さんの身体を支えながら、僕は本殿の扉の方に向かっていく。
「……あれ」
扉が……開いている。そもそも、扉までの距離も拍子抜けするほどに短いものだった。
「終わった?」
と、蛍さんの声が聞こえてきた。見ると、扉の先に蛍さんが立っている。
「あ……は、はい……なんとか」
「そう。じゃあ、その子連れてこっち来て」
あれ……蛍さん、なんだかあまり嬉しそうじゃない。ようやく全てが終わったというのに……
しかし、言われるままに僕は黒田さんの身体を支えながら蛍さんの方に向かっていく。
そして、僕達は……本殿を出た。暗い境内には……本当に僕と蛍さん、そして、黒田さんしかいなかった。
「ふぅ……とにかく、黒須君はとりあえず、お疲れ」
蛍さんは少し疲れた様子で僕にそう言う。
「あ……は、はい」
「それと……アンタ。黒田琥珀……だよね? 立てる?」
蛍さんにそう言われて黒田さんはよろめきながらも立った。
「は、はい……そ、その……私――」
と、黒田さんがそう言い終わらない間に、蛍さんは思いっきり黒田さんの頬を右手で引っ叩いた。
「……え?」
黒田さんはあまりのことに、目を丸くしている……無論、僕も。
そして、蛍さんは怒りの形相でこう言った。
「アンタ……自分が何やったか……ホントにわかってんの!?」