神は去りぬ
「……あれ」
僕はしばらくしてから目を覚ます。
周りはなんだか薄暗い。確か僕は……
「黒田さんを助けようとして……それで……」
思い出した。僕は意識を失ったのだ。蛇の身体に締め付けられて……
ということは、僕は死んでしまったのだろうか。
「死んでないよ。君は」
声が聞こえる。僕は振り返った。見るとそこにいたのは……
「……白神さん?」
巫女服に、白い髪……一番最初に会った時と変わらない姿の白神さんがいた。
「やぁ。大丈夫かい?」
「え……えぇ……ここは?」
「白神神社の本殿だ。よく見てみるんだ」
そう言われて僕は今一度よく周りを見る。確かに、先程までの白神神社の本殿だった。
「え……でも、たしか僕は……」
「ああ。黒田琥珀に絞め殺されそうになっていた……そのとおりだ」
そう言うと白神さんは大きくため息をつく。
「まったく……君には心底失望させられたよ。我が一族と違って、アダムの一族はアダムの性格までは受け継がなかったようだな」
「え……ど、どういうことですか?」
すると、白神さんはフッと自嘲気味に微笑む。
「……最初は、100%恨みだった。私を捨てたアダムの子孫……そして、黒田の一族の末裔……その二人が八十神語りの末に死んでしまえばいい……そう思っていた」
そう言ってから、白神さんは苦笑いする。
「私もどうしようもない存在だが……我が一族の末裔も私によく似ている。だが、君は違った。君は……アダムとは少し違うようだ」
「え……そうなんですか?」
「ああ。アダムならば……そもそも、この神社には来なかっただろうから」
そういって、白神さんは僕の方に近づいてくる。
「……私の負けだ。八十神語りは失敗した。君と我が一族の末裔は死ななかった……やれやれ。これで私もようやく未練が無くなったよ」
そういって白神さんは僕に笑ってみせた。
「君との八十神語り……とても楽しかった。満足したよ。もちろん、私のしたことは最低だ……だが、わかるだろう? 誰だってそういうことをする可能性があるんだ。それを覚えていてくれ」
そう言うと白神さんは僕に背を向ける。
「そろそろ行くよ。私はもう二度と君達の前に現れない……君がしなければいけないのは……くれぐれも、我が一族の末裔を……大切に扱ってくれ」
「え……ちょ、ちょっと! 白神さん!」
僕がそういう間もなく、白神さんは薄暗い闇の中に消えていった。
「あ……行っちゃった……」
「……はい。これで……あの人はもう、満足したみたいです」
と、またしても思いもよらぬ方向から声が聞こえてきて僕は驚く。
「え……あ!」
声のする方向を見ると、そこには……
「……黒田さん」
部屋の隅っこで体育座りをして小さくなっている、巫女服姿の黒田さんがいたのだった。