表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
183/200

あの日々への願い

 僕は咄嗟に身を躱そうとする……しかし、おそすぎた。


 黒田さんの蛇の下半身は、僕の身体に巻きついてくる。


 そして、それはあっという間に、僕の身体を締め付けてしまった。


 僕は完全に身動きが取れなくなる……ぬめりとした蛇の身体の触感だけが服を通して伝わってくる。


「あ……あぁ……」


「フフッ……大丈夫ですよ? すぐには殺しませんから」


 嬉しそうな顔でそう言う黒田さん……僕は正直恐怖していた。


 蛇の身体は……間違いなく蛇そのものだった。白い蛇……それこそ、灰村家で見た酒瓶の中に入っていた蛇のような……


「く……黒田さん……」


 僕はなんとか黒田さんの方を見る……それは、紛れもなく黒田さんだ。


 だったら……おかしいではないか。何を恐怖する必要がある?


 黒田さんは黒田さんだ。


 僕は黒田さんに……僕の知っている黒田さんとして、帰ってきてほしい。


「はい? なんですか? いいですよ。一緒に死ぬ前に何か私に言ってくれるんですね?」


「……黒田さんは……死にたいの?」


 僕がそう言うと黒田さんはジッと僕を見る。そして、少し眉間に皺を寄せる。


「……死にたくないとでも……思っているのですか?」


 そう言って黒田さんは僕の方に顔を近づけてくる。


「知っているでしょう? 黒田家は……呪われた一族なんです。そんな一族は滅んでしまったほうが良い……ならば、せめて私は……賢吾と一緒に八十神語りを完遂したい……そう思っています」


「それは……黒田さんの気持ちなの?」


 俺がそう言うと黒田さんは押し黙る。


「だって……それって、黒田家の問題じゃないか。それは……黒田さんのせいじゃない」


「ですが……私は……」


「……黒田さんは嫌いかもしれないけど、蛍さんは……あの人だって、黒田さんと一緒だよ」


「……え?」


「蛍さんは自分の因果を把握している……把握した上で今でも生きている。蛍さんは死のうなんてしていない……だったら、黒田さんだって――」


「あ……あの女の話なんてどうでもいいでしょう!」


 黒田さんは激昂し、僕の身体を締め付ける力が強くなる。思わず内蔵が口から飛び出てしまうのではないかという感覚に、僕は苦しめられる。


「く、黒田さん……そういう意味じゃ……」


「賢吾は……私のことだけを見てくれていると思ったのに……どうして……どうして……」


 締め付ける力は強くなっていく……段々と意識が薄くなっていく。


 ダメだ……でも、僕は……


「……黒田さん……僕はね……戻りたいだけなんだよ……」


「……え?」


 なんとか僕がそう言うと黒田さんはキョトンとして僕を見る。


「……オレンジ色の夕焼け……不格好なおにぎり……それに……ちょっと恥ずかしいけど……綺麗な黒髪……もう一度、全て元に戻ってほしい……それだけ……なんだ……」


 薄れていく意識の中で僕がそう言うと、黒田さんの目の端に光るものが微かに見えた。


「で、でも……もう、アナタは……私のことを……許してくれないでしょう? 私は、もう……」


「……何言ってんだよ……黒田さんは、僕にとっては今でも……僕のことを助けてくれようとした……優しい巫女さんのまま……だよ……」


 そこでなんとか黒田さんに微笑んだ所で、僕は限界だった。黒田さんの下半身は、自然と僕の身体を強く締め付けていたらしい。


「え……そ、そんな……黒須さん……黒須さん! 嫌! もう私を一人にしないでください!」


 そんな悲痛な黒田さんの声だけが、遠くの方から僕に聞こえてきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ