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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
182/200

窮地

 僕はあまりのことに気が動転してしまった。


 まず、突如として現れた黒田さん、そして、黒田さんの異様な姿……


「あ……あぁ……」


 声にならない声を僕が漏らすと、黒田さんはニンマリと微笑む。


「フフッ……怖いんですか? 私が」


 そういって、黒田さんはゆっくりとこちらに向かってくる。蛇の下半身が床を這いながら、僕との距離を詰めてくる。


「大丈夫……ずっと、八十神語りの最後はこうだったんですから」


「え……ずっと……」


 僕がそう訊ねると、黒田さんは頷く。


「ええ……八十神語りを最後まで完遂させた巫女は、神の力を得る……それは、最終的に人ではなくなるということですから」


「じゃ、じゃあ……蛇のように抱き合って死ぬっていうのは……」


 僕がそう言った瞬間、即座に蛇の下半身が僕の方にめがけて迫ってきた。僕は反射的に思わずそれを避けてしまった。


「……避けないで下さい。すぐに終わりますから」


 黒田さんは冷たい表情でそう言う。さすがに冗談ではない……このまま蛇の下半身に巻きつかれ、絞め殺されるなんて……


 僕はようやく自分が危機的状況にあることを理解した。そして、そのまま立ち上がり、一目散に本殿の扉へと向かう。


 自分でも今まで走ったことがないレベルで、僕は全力で走った。あり得ない程に長い廊下を抜け、僕は本殿の扉まで戻ってきた。


「あれ……? 黒田さんは……」


 黒田さんは……追ってこなかった。あの長い蛇の身体を使えば、僕に追いつくことなんて簡単である。


 しかし……追ってくる気配はない。ならば……


「ほ、蛍さん! 大変なんです! 黒田さんが!」


「どうしたの!? 何があったの?」


 蛍さんの声……僕は安心する。


「く、黒田さんが……うぅ……」


 黒田さんの姿を思い出すと悲しくなってしまった。どこか引っ込み思案だったけど、優しかった黒田さん……そんな彼女が、あんな姿に……


「とにかく! 危険だから、出てきていいわよ!」


 蛍さんのその言葉に、僕は扉に手をかける。


 しかし、思いとどまった。


 蛍さんは言っていた。外から絶対に呼びかけない、と。


 あの蛍さんのことだ……ああ言ったのならば、絶対に呼びかけないだろう。


 じゃあ、今僕に扉の外から呼びかけているのは……誰だ?


「どうしたの? 早く扉を開けて……」


 そこで気付いた。声は……扉の外から聞こえてくるんじゃない。


 僕の背後から聞こえて売るのだ。


「ねぇ……早く扉を開けてください……そしたら、賢吾にちょっかいを出しているあのクソ女をぶっ殺せますから……!」


 明らかにそれは蛍さんの声ではなかった。そして、僕はついに恐る恐る背後を見てみた。


「開けないのなら……無理にでも、開けてもらいますよ?」


 暗い闇のその先には、獲物を狙う蛇のように怪しく光る瞳が二つ……それは、紛れもなく黒田さんのものだった。

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