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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
181/200

シラカミ様の顕現

 ついに、終わった。


 シラカミ様の話……これで、僕は八十神語りのすべての話を聞いたことになる。


 話が終わった途端、黒田さんの気配はどこにもなかった。


 それこそ,まるでこつ然と姿を消してしまったかのように、である。


 僕は、背後を振り向けなかった。恐ろしすぎる。


 もし、そこに黒田さんがいたら……いや、しかし、今日は黒田さんを助けにきたのだ。そんな恐怖に負けていてはいけない。


 僕は今一度、月明かりに照らされた皿に盛られた塩を見てみる。


 黒い……つまり、まだ終わっていないのだ。


「賢吾」


 と、黒田さんの声が聞こえてきた。それはどこからか……背後ではなかった。


「これで、全て終わりました。八十神語りが……これからどうなるか……知っていますよね?」


 僕は何も答えない……知っている。八十神語りを終えた男女は、互いに死んでいる……しかも、女の方が男に、まるで蛇のように絡みつくようにして、抱き合ったまま死んでいるのである。


「ふふっ……ちょっと、興奮しますよ。だって、これから、賢吾と一緒に……死ねるんですもの」


「……黒田さん!」


 僕は部屋の中全体に響き渡るような大きな声でそう言った。黒田さんの返事は……ない。


「僕は……黒田さんを助けに来たんだ! もう……こんなことは終わりにしよう! 黒田さんはもう……八十神語りに縛られる必要なんてないんだ!」


 僕はありったけの声でそう叫ぶ。本心だ……僕は、戻ってほしかった。


 それこそ……不格好ではあるが……僕におにぎりを作ってくれた黒田さんに。


「だから……帰ろう! 一緒に」


「……ふっ……ふふっ……アハハハハ!」


 黒田さんの狂気じみた笑い声が聞こえてきた。僕は思わず戸惑ってしまう。


「え……な、なんで笑って……」


「ああ、すいません……でも、賢吾。私ね……もう、帰る所ないじゃないですか。お爺ちゃんも、お母さんも……私は、もう一人ぼっちなんです」


「そ、そんなこと……」


「それに……」


「え……それに……?」


 その時、僕は奇妙なことに、唐突に気付いた。


 黒田さんの声……なぜか、僕の頭上から聞こえてくるのだ。それこそ、天井から。


 先程までは背後だったのに……そもそも、黒田さんの身長は僕と同じくらいだったはずなので、違和感がある。


 僕は声が聞こえる方向を探して、部屋を見渡す。すると、天井の隅に見つけた。


 こちらを見る、二つの光る目……


「あ」


 僕は思わず声を漏らしてしまった。そして、それから、漸く理解する。


 二つの目は……黒田さんのものだった。そして、天井付近に確かに黒田さんの顔、そして、巫女服を来た胴体がある……


 しかし、その下半身がおかしいのである。人間の足ではない。


 それこそ、白い蛇のような……長い長い胴体が伸びているのだ。


「それに……私、もう人間じゃないですから」


 黒田さんの言葉の通りだった。まさしく、「シラカミ様の話」の通り。


 上半身が人間で、下半身は蛇……蛇の下半身が長すぎるため、頭が天井にまで届いていたのである。


「だから……今ここで……一緒に死んで?」

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