カガミ様の話
その村のはずれにある家には、鏡がついた化粧台があった。
そして、その家には、醜い顔の少女が住んでいてね。
少女は毎日鏡に向かいながら、ため息をついていた。
どうして自分はこんな顔なのか……どうにかしてもっと美しい顔を手に入れられないのか、と。
ある日彼女は鏡にお願いしてみた。
どうか、鏡様。自分に美しい顔を与えてくれ、と。
もちろん、彼女だってそれが実現するとは思っていなかった。
その日、彼女は鏡に向かってそう願ってから眠りについた。
すると、次の日、驚くべきことが起きた。
目を覚ました彼女が鏡の中に見たのは、美しい美女の顔だった。
ただ、不思議なことに化粧台以外の鏡に映しても、少女は醜い顔のままだった。
だが、そんなことは少女にとってどうでもよかった。
少女は毎日化粧台の鏡に向かうのが楽しみになった。
鏡を見れば、美しい自分がいる。
それだけで彼女にとっては十分だった。
しかし、それはどんどんエスカレートしていく。
彼女は飲み食いさえせず、ずっと鏡の前座っていた。
心配した家の周りの住人が何を言っても彼女は鏡の前から動こうとしない。
そのうち、住人達も少女のことを放っておくようになった。
それから数週間、村では少女の姿を見なくなった。
心配した村の住人が家の中に入ってみると……少女はいなかったんだ。
部屋は散らかり放題で、蜘蛛の巣さえ張っている。
ただ……化粧台の鏡だけは綺麗な状態だった。
そこで、住人の1人は鏡を思わず覗きこんでしまった。
それと同時に、絶叫を上げてね。
他の住人がどうしたんだ、と聞いても、カガミ様がいる、カガミ様が顔を取りに来る、と錯乱していて話にならない。
……それ以来、少女の家にある鏡には、カガミ様が宿っている、ということになり、毎年一度、カガミ様を沈めるために皆でお祈りをしていた……これが、カガミ様の話さ。