禍々しき場所
僕が本殿の中にはいった瞬間、本殿の扉が勝手に閉まった。
ある程度予想できたとは言え、実際にそれが現象として怒ると、恐ろしいものがあった。
僕はなにも言わず本殿の中を進んでいく。
信じられないことだが……本殿の中は広大だった。どう考えても、外から見た大きさ以上に、奥行きがある。
灰村家で経験したこと……それと同じことが、この本殿でも起きているのだろう。
僕は、塩が守られた皿を持ったまま、歩いて行く。
そして、暫く歩くと、広い所に出た。
小さな窓があって、そこから月の光が差し込んでいる。僕はそこに塩が守られた皿を置く。
そして、そのままその場に座った。
「ようこそ、賢吾」
背後から聞こえてきた声は……黒田さんの声だ。
僕は直感的に目を合わせてはいけないと思った。
ただ目の前の、月の光に照らされた塩だけを見ることにした。
「ここに来るまで、大変だったでしょう? 白神さんったら……しょうがない人ですね」
黒田さんの声が近づいてくる。
それとともに、背後から足音も聞こえてくる。
黒田さんの足音が近づいてくる度に、盛られた塩が、頂きの部分から、少しずつではあるが、黒くなっていく。
まるで、かき氷のシロップが浸透していくみたいに……塩は少しずつ上のほうから黒くなっていく。
「でも、私は信じていましたよ。賢吾君ならここまで来られる、って」
既に黒田さんの声は僕のすぐ背後まで来ているようだった。
僕は返事はせず、塩を見つめている。
塩は……既に半分ほど真っ黒になっていた。
「邪魔者はいなくなりました……今は私と二人きりです。ですから……準備はいいんですか?」
黒田さんの声は、耳元で聞こえた。さすがに僕も恐怖を感じてしまう。
「さぁ、八十神語り最後の話……シラカミ様の話を、始めましょう」
黒田さんがそう言うと共に、塩の山は……完全に真っ黒になってしまっていた。




