根源の中へと
「……え、えっと……蛍さん。僕、まだ理解できてないんだけど……白神さんは一体何をしようとしたの?」
本殿に近づいていく最中、僕は蛍さんに訊ねる。蛍さんも少し難しい顔をして僕を見る。
「うーん……簡単に言えば、白神と、黒田琥珀が求めているものが、厳密には違う、ってことかな」
「え……違う?」
「うん。白神はその……賢吾君のご先祖様を求めている。そして、黒田琥珀は、賢吾君そのものを求めている……それで、微妙にズレが生じているわけ」
「あ、ああ……でも、なんで白神さんは黒田さんを裏切るような真似を……」
「……もしかすると、今まで勘違いしていたのかも」
と、蛍さんは少し考え込むように、腕を組む。
「え……何がです?」
「今ままで、白神が全ての主導権を握っていると思っていた……でも、実際には、白神が力を貸しているだけで……全ては黒田琥珀が……」
そう言うと、蛍さんは鋭い瞳で僕を見る。
「……こりゃあ、ナメてかかると痛い目見るかな」
そう言うと蛍さんはパンパンと自分の頬を叩く。
「よし! ……準備、いい?」
「え、ええ……えっと……僕はこのまま行って大丈夫なんですか?」
さすがに不安だった。お守りも十字架も無くなってしまって……僕を守るものは今、何もないのである。
蛍さんは少し悩んでいたが……小さく頷く。
「まぁ……外から私が、簡単に賢吾君には手出しできないようにするから……ただ、一つ、忠告ね」
「え……なんですか?」
「一度本殿に入ったら……全てが終わるまで途中で出てこないこと」
真剣な表情で蛍さんはそう言った。
「全てが……終わるまで」
「そう。後……私は絶対、外から賢吾君に呼びかけないから」
「え……じゃあ、いつ全部終わったって分かるんですか?」
「それは、わかる。これ」
そう言って、蛍さんは小さなお皿を取り出した。
そこに、懐から取り出した粉状のものを盛った。
「……この塩が真っ白になったら、全部終わったってことだから」
「え……塩が真っ白って……そんなの当たり前――」
「これから、真っ黒になるよ」
抑揚のない調子で蛍さんはそう言った。それは、紛れもなく怖い言葉だった。
「……じゃあ、行ってきて。そのお皿を持って」
僕は小さく頷いた。行かなければいけないのなら……飛び込むしか無い。
僕は本殿の扉の前まで行く。そして、一度だけ、振り返った。
蛍さんは僕を見ていた。そして、優しい笑顔で僕を見る。
「待っているから」
その言葉を聞いて、僕も笑顔で返した。そして、そのまま本殿の中に入っていったのだった。