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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
174/200

忘れないで

 深夜の石段は……静かだった。


 周囲から虫の声くらい聞こえてきてもいいはずなのに……それさえも全く聞こえない。完全なる無音の世界だった。


「ねぇ」


 そこへ、蛍さんの声が聞こえてきた。僕は隣に顔を向ける。


「え……どうかしましたか?」


「……賢吾君、黒田琥珀のこと……怖い?」


 蛍さんの質問は意外なものだった。僕はいきなりのそんな質問に戸惑う。


「怖い……それは……」


「……賢吾君は知っているんでしょう? 白神に取り憑かれる前……紅沢神社の巫女だった頃の黒田琥珀を」


 僕は小さく頷いた。


「さっき、せんせーが言ってたこと……賢吾くんがどうしたいかって、大事だと思う。アタシは……正直、今から白神から黒田琥珀を取り戻すのは……相当難しいと思う」


 そういって、蛍さんは真剣な目つきで僕のことを見る。


「でも……もし、賢吾君がそうしたいって思うなら……不可能ではないと思う」


「蛍さん……」


 そう言われて僕は、思い出していた。


 かつて、この石段を一緒に歩いた黒田さんのことを。あの時のオレンジ色に照らされた綺麗な黒髪を。


「……正直、アタシはどうでもいいんだけどさ……そこは、賢吾君の勝手だから」


「……ありがとうございます。蛍さん」


 思わず僕は御礼を言ってしまった。蛍さんは目を丸くして僕のことを見る。


「御礼とか……まぁ、当然だけど……ねぇ、賢吾君」


「はい、なんでしょう?」


 そういって、蛍さんは僕の両手を、ギュッと優しくその両手で包む。


「……絶対に、無事に帰れるから。私がいること、忘れないで」


 僕はそういう、蛍さんを見て、そのことを絶対に忘れないでいようと、強く心に銘じたのだった。

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