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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
173/200

最期の因果へ

 そして、ついにその時がやってきた。


 僕は……正直、とても怖かった。白神神社までの見知った道を歩く夜……まるで自分から死地へ赴いているような……そんな気分さえしてきた。


 しかし、それも、白神神社へと続く石段の前で薄れる。


 石段の前には……


「賢吾君」


「……蛍さん」


 石段の前には巫女服姿の蛍さん……そして、黒いスーツ姿の番田さんが立っていた。


「大丈夫かね、黒須君」


 番田さんは相変わらずの無表情で僕に訊ねる。僕は曖昧に微笑むことしかできなかった。


「……いえ、ちょっと厳しいですかね」


「そうか……お守りと十字架は?」


 番田さんに言われて、僕はポケットから十字架……そして、蛍さんにもらったお守りを取り出す。


「……持ってきてるわね。よし」


 蛍さんはそれを見て頷く。


「せんせー。悪いんだけど、せんせーとはここでお別れだから」


 蛍さんは至極真剣な表情で番田さんを見る。番田さんも鋭い目つきでそれを見る。


「ああ、わかっている。残念だが、私も、さすがに死んでしまっては研究が続けられないからな」


「……分かっているだろうけど、もし、アタシや賢吾君が戻らなくても……探しにこないでね」


 番田さんはそれを聞いて、フッと笑いながら頷いた。


「ああ、しかし……そうはならないと、私は思っているよ」


 番田さんの言葉を聞いて、蛍さんも不敵に微笑んだ。


「……じゃあ、賢吾君、悪いんだけど、ちょっとこっち来て」


「え……あ、うん……」


 そういって、蛍さんはその場にいた時から持っていた何かを俺に見せる。それは……小さな小瓶のようなものだった。


「……これ、アタシが今世話になっている神社のお神酒。今から、これ、賢吾君に飲ませるから」


「あ……わかりました」


「そう。先に言っておくけど、もし、これから白神神社の中に入ってから、これを吐くようなことがあったら……相当不味いってことだから。覚悟してね」


 僕はそう言われて小さく頷いた。すると、蛍さんは瓶の蓋を開け、それを……なぜか一気に自らの口の中に注ぎ込む。


「え……蛍さ――」


 と、僕が驚いていると、蛍さんはそのまま僕の肩をつかみ、一気にその唇を僕の口に押し付けてきた。


 あまりのことに唖然としていた僕は……そのまま、口移しの形で、蛍さんからお神酒を飲ませられたのだった。


「……ぷはぁ……ふぅ……」


 すべてを注ぎ込んだ後で蛍さんは僕から離れた。僕もあまりのことに全て飲み干してしまったが……よく考えるととんでもないことをされたのだとようやく理解した。


「……ちょっと、いつまで呆けているわけ?」


「え……あ、ああ。ごめんなさい……」


「……お酒と一緒に、アタシの力を注ぎ込んだから……アイツを前にしてもたぶん、気絶とかは……無いと思う」


 蛍さんは少し恥ずかしそうな顔でそう言う。僕も少し恥ずかしかった。


 その後、蛍さんは念のため、といって僕の頭に少量の塩を振ってくれた。


 これからやはり不味い所に飛び込んでいくということが理解できて……恐怖が少し戻ってきた。


「……準備は出来た。いい? 賢吾君」


 蛍さんにそう言われ、僕は頷く。


「賢吾君」


 と、そこで今までずっと黙っていた番田さんが声をかけてきた。


「え……番田さん、なんですか?」


「……私は、これまで結構な数のこういうケースに携わってきた。しかし、一つの共通点があると考えている。それは……巻き込まれた人間がどうしたいか、だ。どういう気持で巻き込まれるか……それによって、結末は大きく変わる」


 そう言うと番田さんは僕の耳元にそっと口を近づける。


「……蛍君のこと、よろしく頼む。今回ばかりは彼女も……危険なんだ」


 そうして、黒いスーツの探求者は僕と蛍さんに背を向ける。


「喫茶店テンプルの店主には今日は特別料金を払っていてね、一日中貸し切りをしている。もちろん、どんなに遅い深夜でも、だ。私は喫茶店で資料整理でもしているよ。いつでも来てくれ」


 そういって、番田さんはそのまま歩いていってしまった。


「……せんせーらしい、かな」


 蛍さんはそう言って、苦笑いする。僕も同じように微笑んだ。


「さて……行こうか、賢吾君」


「……はい」


 そして、僕と蛍さんは、石段を登り始めたのだった。

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