因縁を断つには
「……で、大丈夫だった?」
蛍さんが俺にそう訊ねてくる。
黒田真白は……僕に何もしてこなかった。
ただ……聞いただけだった。果たして、僕が誰を愛しているのか……選択をしているのか、を。
「……うん。大丈夫」
僕は今一度はっきりと蛍さんにそう言った。既に蛍さんも鳥居のこちら側にやってきている。
目の前には……黒ずんだ神社の焼け跡……既に黒田真白の気配はどこにもなかった。
「……蛍さん。その……」
「……黒田真白は……もうここにはいないわ」
蛍さんはつらそうな顔でそう言った。そして、そのまま先を続ける。
「彼女は……たしかに人の形をしていたけれど……その中にはあらゆる怨念が渦巻いていた」
「でも……僕には何もしてこなかったですよ?」
「ええ……それは、黒田真白が全てを押さえ込んでいたから……彼女がかつてこの神社で八十神語りを行ったのは、きっと全てを終わらせたかったから。自分の娘……琥珀に、白神さんの悪影響を与えたくなかったからだと思う」
そういって、寂しそな顔で蛍さんは神社の焼け跡を見る。
「……でも、結果的に、一人残されてしまったことで、黒田琥珀は誰かを強く求めるようになった……それは、黒須君であり……白神さんであった……」
そして、蛍さんは今一度僕の方を見る。
「……黒須君。もし、黒田真白の願いを叶えてあげるなら、方法はたった一つしかないわ」
「え……それって……」
蛍さんは真剣な顔で、そして、どこか寂しそうな目で、僕のことを見ていた。
「……黒田家と白神さんの因縁を終わらせる……つまり、黒田琥珀には……この世から完全に消滅してもらうしか……方法はないわ」




