見えない壁
そして、僕と蛍さんは、北地区を通り、旧白神神社へとたどり着いた。
目の前には長い石段が続いている。
先ほどの蛍さんの告白は……正直驚いたが、そろそろ気持ちを切り替えないといけない。
「……準備、いい?」
蛍さんが真剣な声でそういう。僕はゆっくりと頷いた。
「じゃあ、行くわよ」
僕と蛍さんは石段を歩き出した。一歩ずつ。
……この先の神社には、黒田真白がいる。
死んだはずの黒田さんのお母さん……それが未だにこの神社に取りついているのだ。
そして、僕と蛍さんはそれをなんとかしなければいけない……しかし、本当にできるのか?
……いや、しなくてはいけない。できるできないの問題ではない。
それに、僕には……
「ん? どうしたの?」
思わず僕は蛍さんのことを見てしまった。目が合って……今更ながらになんだか照れくさくなってしまった。
「……蛍さん、その……よろしく、お願いします」
「え……あ、ああ……わかってるわよ」
蛍さんもなんだか調子が狂ってしまっているようだった。
いやいや、既に石段はもうすぐ終わって鳥居が近づいてきている。気持ちを入れ替えなくてはいけない。
そして、僕と蛍さんは……いよいよ、鳥居の前までやってきた。
「……ここを抜けたら、何が起こるかは保証できないわよ。いい?」
蛍さんも緊張した面持ちだった。僕は小さく頷く。
「じゃあ、一気に行くわよ」
そういって、蛍さんは僕の手をつかむ。僕もそれを強く握り返す。
そして、ほぼ同時に鳥居をくぐり抜けようとした……はずだった。
「痛っ!」
と、蛍さんが立ち止まってしまった。その瞬間、強く握りしめていたはずの手が離れてしまう。
「え……蛍さん!?」
「賢吾君! な……なにこれ……」
「ど、どうしたんですか? 早くこっちに……」
「い、行けないのよ!」
蛍さんは慌てた様子でそう言う。僕は蛍さんの近くに寄っていく。
「え……な、なにこれ……」
僕は唖然としてしまった。
僕も蛍さんの方に戻ろうとしたが……戻れなかった。それこそ、ちょうど鳥居を境界として「、見えない壁があるようで、そこから先に進めないのである。
「賢吾君! とにかく気をつけて! そこから動けないで!」
蛍さんの声だけは聞こえる。僕は頷いた。
「ごめんなさいね~。どうしてもその子はここに入れられなかったのよ」
と、蛍さんのものではない声が聞こえてきた。見るとそこには……
「あ……アナタは……」
巫女服姿に黒い髪、白い肌、どこかで見たことのある女の子とよく似た姿……
「お久しぶりね」
黒田真白は優しげな笑顔で僕にそう言ったのだった。