決意の色
「……そうか。黒須君。良かったな」
ホテルの受付には、番田さんが待機していた。
蛍さんは少し不機嫌そう番田さんを見ている。
おそらく番田さんが僕に蛍さんの秘密を色々喋ったことを怒っているんだと思うが……番田さんはあまりそのことには触れないようにしているように見えた。
「えっと……それで、番田さん。さっそくなんですけど……蛍さんとはさっき、このまま旧白神神社に行こうか、って話をしていて……」
「何? 旧白神神社? なぜ?」
番田さんの表情がにわかに曇る。
しかし、蛍さんが憮然とした態度でそれに対応する。
「せんせー。もう時間がないわけ。だから、さっさと原因になっているものを取り除いてく……あの神社に巣食っているモノはいずれにしても取り除く必要があるの」
蛍さんのその説明に、番田さんはそれ以上意見を言わないようだった。
「……わかった。まぁ、止はしない。情けない話だが、私が同行しても足手まといになるだけだろうし……」
「だね。せんせーはここで待っててよ」
蛍さんは容赦なく番田さんにそう言う。
番田さんもそれに苦笑いで返すことしかできなかった。
「……賢吾君。さっさと行こうか」
「あ……はい」
そういって、蛍さんはホテルから出ようとして歩いていってしまった。
「黒須君」
と、僕がそれについて行こうとすると、番田さんが僕を引き止める。
「え……どうしました?」
「……彼女の髪、見たか?」
「え……あ、ああ……」
番田さんに言われて、僕は今更ながら、蛍さんの髪がいつもの金色ではなく、綺麗な漆黒の色になっていることを改めて認識した。
「蛍さん……なんで……」
「……彼女は本気を出す時、いつもあの色に戻すんだ」
「え? 本気……」
僕がそう言うと番田さんは小さく頷く。
「……自分の巫女としての力を最大限発揮できる色……それがあの黒髪なんだ。だから彼女は本気で君のことを助けようとしているというわけだ」
そう言うと番田さんは今一度僕のことを鋭い瞳で見てくる。
「だから……黒須君。もう彼女の気持ちを裏切るようなことは……しないでくれ」
番田さんの真剣な言葉を聞いて、僕は今一度心に決める。
二度と、蛍さんを裏切らない、と。
「はい!」
「賢吾君! 何やってんの!? さっさと行くよ!」
「あ……すいません! 今行きます! じゃあ、番田さん……」
番田さんは小さく頷いた。
僕はそのまま急いで蛍さんの元へと走っていったのだった。