離さない誓い
「さて……どうしたものかしらね」
僕が正気を取り戻してから、蛍さんはホテルのベッドに腰掛けて難しい顔をしていた。
「……最後の八十神語りまでは……一週間しかないんですよね」
「そうね……色々と解決しなきゃいけないことは残っているっていうのに……まったく」
蛍さんはそう言うと大きくため息をついた。
「……まずは、アイツの力を弱めることが先決かしらね」
「え……力を……弱める?」
僕が思わず訊ねてしまうと、蛍さんは大きく頷く。
「そう。アイツの力が活性化されているのは、アイツの本拠地が元気になっちゃっているから……そこをどうにかすれば、多少、アイツの力も弱まるはず」
そういって、蛍さんは難しそうな顔をする。
「え……アイツの本拠地って……もしかして……」
「……あそこ。旧白神神社」
そう言われて僕は納得する。確かにあそこは相当禍々しい感じがした。
そして、あそこで見た者は……
「……黒田真白」
「そう。白神が取り憑いている賢吾君の友達……黒田琥珀のお母さんね」
そういって、蛍さんはベッドから立ち上がる。
「あの母親は無自覚なんでしょうけど……旧白神神社にあの母親がいるせいで、白神の力が強まっている。だから……悪いけど、さっさと成仏してもらわなきゃいけない」
「でも……蛍さん。その黒田真白は……」
すると、蛍さんは険しい顔で僕のことを見る。
「……人の形をしていなかった。分かっているわよ」
そう言うと蛍さんは僕の方に近づいてくる。
そのままジッと僕のことを見つめていた。
「え……蛍さん?」
すると、蛍さんは今一度ギュッと僕の右手を握る。
「……手、離さないで。今度は、何があっても」
その言葉は心の底からの言葉に思えて……僕は思わずギュッと蛍さんの手を握り返す。
「……はい。絶対、離しません」
そう言うと、蛍さんは満足そうに頷いた。
「……よし! じゃあ、さっさと片付けちゃいますか!」