行く先は
思わず僕は今一度、自分がいる場所を確認してしまう。
部屋だ……普通のホテルの一室……しかし、先程まで僕は確かどこかの神社にいたはずなのだが……
「で、何しにきたの?」
と、ケイさんの声で僕は我に返る。ケイさんは……やはり不機嫌そうだった。
「あ……その……ケイさん、僕……」
「この前の件を謝りに来た……でしょ?」
……やはり見透かされていたようである。ケイさんはジト目で僕のことを見る。
「……はい」
「ふぅん。まぁ、別にいいよ。気にしてない……って言えば嘘になるけど」
ケイさんはそう言ってベッドの上に座る。
そういえば……目立つ金色だったはずの髪が……真っ黒になっている。
見間違いや幻想じゃなければ間違いなく黒い。
それこそ、さっき会ったケイさんそっくりの少女……名前は……
「蛍」
僕が思い出すよりも先にケイさんの方がその名前を口にした。
そして、少し悲しそう顔で僕を見る。
「え……ケイさん、それは……」
「……私の本当の名前。なんとなくだけど……もう、せんせーから聞いたんじゃない?」
……まさしくその通りだったので僕はなんとも言えなかった。ケイさんは苦笑いしながら僕を見る。
「はぁ……まったく。せんせーも口が軽いなぁ……まぁ、いいや。結局こうなっちゃたから、黒須君には話すことになっただろうし」
「え……ケイさん、その……さっきの蛍は……」
思わず、僕がそう言うとケイさんは小さくため息を吐く。
「……まぁ、せんせーから聞いていると思うんだけど……私は、孤児なんだよね」
ケイさんはそう言って、遠い昔を思い出すかのように目を細める。
「まぁ、大体せんせーから聞いただろうから詳しくは話さないけど……物心付いた時には……あの神社に養子としてもらわれていた。だから本当の母親とか父親とか……そういうのは全然知らないわけ」
「あ……そう……なんですね」
かける言葉が見つからなくて、僕は思わずそんな言葉しか言うことができなかった。
「……まぁ、別にそれで悲しいとか、自分が惨めだ、とかそういう風に思ったことはないよ。ただ……あの神社に引き取られたのは……運が悪かったと思うけどね」
少し自嘲気味に笑いながらケイさんはそう言った。
あの神社……それはつまり、番田さんが言っていた……
「……その……ホタルビ様って……なんなんですか?」
僕は思わずケイさんにそう聞いてしまった。
ケイさんは少し驚いたような顔をしていたが……しばらくすると、伏し目がちに話を再開する。
「……さぁ。詳しいことは知らない。でも、それが何かの儀式だったっていうことと……今もそれが私に取り憑いているってことはわかるかな」
「え……今も?」
思わず僕は驚いてしまった。
しかし、ケイさんは何事もなかったかのようにそのまま話を続ける。
「そう。たまーに、私が油断すると、出てきちゃうってわけ。で、さっきの黒須君が体験したみたいに、他所様にちょっかいを出す……ロクでもない代物よね」
ロクでもない……ともすると死にそう経験をしたのだが……
僕がそんな表情でいるとケイさんはジッと僕のことを見る。
「……まぁ、その顔だと……死にそうになったんでしょ?」
「え……ケイさん。知ってたんですか?」
「知らないわよ。ホタルビがどうするかなんて私にはどうにもできないわ。かといって私を他のモノから守ってくれるわけでもない……制御不能なのよ。でも、黒須君のその顔なら何があったかは大体わかるし、アイツにどんな経験をさせられたのかもわかる」
そう言うとケイさんはベッドから立ち上がった。そして、そのまま僕の方に近寄ってくる。
「え……ケイさん?」
「ねぇ、黒須君」
そういって、ケイさんは僕の目と鼻のすぐ先までやってきた。
至極ケイさんは真剣な表情で僕に聞いてきた。
「黒須君は……死にたいの?」