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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
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行く先は

 思わず僕は今一度、自分がいる場所を確認してしまう。


 部屋だ……普通のホテルの一室……しかし、先程まで僕は確かどこかの神社にいたはずなのだが……


「で、何しにきたの?」


 と、ケイさんの声で僕は我に返る。ケイさんは……やはり不機嫌そうだった。


「あ……その……ケイさん、僕……」


「この前の件を謝りに来た……でしょ?」


 ……やはり見透かされていたようである。ケイさんはジト目で僕のことを見る。


「……はい」


「ふぅん。まぁ、別にいいよ。気にしてない……って言えば嘘になるけど」


 ケイさんはそう言ってベッドの上に座る。


 そういえば……目立つ金色だったはずの髪が……真っ黒になっている。


 見間違いや幻想じゃなければ間違いなく黒い。


 それこそ、さっき会ったケイさんそっくりの少女……名前は……


「蛍」


 僕が思い出すよりも先にケイさんの方がその名前を口にした。


 そして、少し悲しそう顔で僕を見る。


「え……ケイさん、それは……」


「……私の本当の名前。なんとなくだけど……もう、せんせーから聞いたんじゃない?」


 ……まさしくその通りだったので僕はなんとも言えなかった。ケイさんは苦笑いしながら僕を見る。


「はぁ……まったく。せんせーも口が軽いなぁ……まぁ、いいや。結局こうなっちゃたから、黒須君には話すことになっただろうし」


「え……ケイさん、その……さっきの蛍は……」


 思わず、僕がそう言うとケイさんは小さくため息を吐く。


「……まぁ、せんせーから聞いていると思うんだけど……私は、孤児なんだよね」


 ケイさんはそう言って、遠い昔を思い出すかのように目を細める。


「まぁ、大体せんせーから聞いただろうから詳しくは話さないけど……物心付いた時には……あの神社に養子としてもらわれていた。だから本当の母親とか父親とか……そういうのは全然知らないわけ」


「あ……そう……なんですね」


 かける言葉が見つからなくて、僕は思わずそんな言葉しか言うことができなかった。


「……まぁ、別にそれで悲しいとか、自分が惨めだ、とかそういう風に思ったことはないよ。ただ……あの神社に引き取られたのは……運が悪かったと思うけどね」


 少し自嘲気味に笑いながらケイさんはそう言った。


 あの神社……それはつまり、番田さんが言っていた……


「……その……ホタルビ様って……なんなんですか?」


 僕は思わずケイさんにそう聞いてしまった。


 ケイさんは少し驚いたような顔をしていたが……しばらくすると、伏し目がちに話を再開する。


「……さぁ。詳しいことは知らない。でも、それが何かの儀式だったっていうことと……今もそれが私に取り憑いているってことはわかるかな」


「え……今も?」


 思わず僕は驚いてしまった。


 しかし、ケイさんは何事もなかったかのようにそのまま話を続ける。


「そう。たまーに、私が油断すると、出てきちゃうってわけ。で、さっきの黒須君が体験したみたいに、他所様にちょっかいを出す……ロクでもない代物よね」


 ロクでもない……ともすると死にそう経験をしたのだが……


 僕がそんな表情でいるとケイさんはジッと僕のことを見る。


「……まぁ、その顔だと……死にそうになったんでしょ?」


「え……ケイさん。知ってたんですか?」


「知らないわよ。ホタルビがどうするかなんて私にはどうにもできないわ。かといって私を他のモノから守ってくれるわけでもない……制御不能なのよ。でも、黒須君のその顔なら何があったかは大体わかるし、アイツにどんな経験をさせられたのかもわかる」


 そう言うとケイさんはベッドから立ち上がった。そして、そのまま僕の方に近寄ってくる。


「え……ケイさん?」


「ねぇ、黒須君」


 そういって、ケイさんは僕の目と鼻のすぐ先までやってきた。


 至極ケイさんは真剣な表情で僕に聞いてきた。


「黒須君は……死にたいの?」

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