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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第八神
162/200

死に際にて

 信じられない光景だった。


 人が火だるまになるのを、僕は初めて見た……それだけじゃない。それが知り合いの女の子だったら尚更である。


「あ……あぁ……」


 僕は間抜けに声を上げることしかできなかった。


 火だるまの蛍は、炎に包まれたままで、僕の方へ近づいてくる。


「さぁ……今度はもう逃げないで。私だけを置いていかないで……ね?」


 僕は、反射的に逃げようとした。しかし、まったく動けなかった。


 そして、蛍が僕の手をぎゅっと握ってくる。


 その瞬間、僕の身体にも炎が引火した。


「あ……あぁ……」


 それはあっという間のことで、僕の身体も炎に包まれてしまった。


「あ……う……ぎゃぁぁぁ!」


 思わず叫び声をあげてしまう。


 信じられない激痛が、熱さが、僕の身体を駆け巡る。


 自分の肉体が焼かれている……その恐怖が、如実に僕自身の脳を地獄へと追いやっていた。


「さぁ……一緒にホタルビ様になろう……黒須君とならなれる……私がずっと一緒にいてあげるから……」


 蛍は僕のことをギュッと抱きしめてくる。益々炎が僕を包み込む。


「い、嫌だァァァ! あ、熱い! 痛いよぉ!」


 半狂乱になりながら叫ぶ。夢であってほしかった。でも、痛いし、熱いし、怖い。


 死にたくない。このまま火だるまになって死ぬなんて嫌だ。


「し……死にたくない! 死にたくないよ! 助けてぇ!」


 情けないと思いながらも僕は全力で叫んだ。でも、蛍は僕を離さない。


 振りほどこうとしても無駄だった。その時わかった。


 そうか……僕は遅かれ早かれこうなる運命だったのだ、と。


 八十神語りに関しても、男女は抱き合ったまま死ぬ……つまり、それは今の状況とほぼ一緒なのである。


 僕は、なんと愚かだったのか。


 今日、こんな状況になるまで、それがどういうことか理解していなかった。


 それは……とても恐ろしいことなのだと。


 そして、僕はとても勝手なことだけれど、今ようやく明確にわかった。


「死にたくない……死にたくないんだよぉ!」


 その時だった。



「うるさい!」



 そんな声と共に、僕は頭に鈍い一撃を感じる。


「……え?」


 僕は一瞬目をつぶった後、ゆっくりと目を開ける。


 そこには……


「あ……あれ……蛍……?」


 僕の目の前には……蛍がいた。


 でも、その容姿はもう巫女服じゃない。どこかの学校の制服だ。


 それに、髪が黒いのは一緒だけれど……肌は小麦色だった。


 蛍はムッとした顔で僕のことを見る。


「……随分と馴れ馴れしくなったわねぇ、黒須君。私のこと、呼び捨てにするなんて」


「え……あれ……ここは……?」


 見渡すとそこは……ホテルの一室のようだった。


「え……僕は……」


 すると、蛍……らしき少女は大きくため息をつく。


「……ホタルビ、追ったでしょ?」


「え……ホタルビ?」


「……蛍がいたでしょ? たぶん……私の部屋の外に」


 そう言われて僕はようやく思い出した。自分が何をしにきたのかを。


 そして、目の前の少女が蛍……ではなく、ケイさんであるということを。

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