身を焦がすほどに
「え……蛍……ど、どこへ行くの?」
僕が聞いても蛍は答えてくれなかった。
本来ならば知らない少女に手を引かれているというのは、これまでの経験上相当不味い展開だと思うのだけれど……どうにも僕は危機感を覚えることができなかった。
それは、周りから聞こえる喧騒や、遠くから聞こえてくる祭り囃子のせい……のような気がした。
そして、いつしか僕と蛍は神社の本殿の前に来ていた。
それが本殿であるということがなぜわかるのか、と思ったが……直感的にそれが本殿だと僕は理解したのだった。
「さぁ、入って」
見ると本殿の中へ通じる扉が開いている。僕は蛍に言われるままに本殿の中に入っていく。
本殿の中は真っ暗だった。月の光さえ入ってこない……完璧な暗黒である。
しかし……その中を一筋の光がボンヤリと浮遊している。
「あ……蛍……」
思わず僕はそう呟いてしまった。蛍はボンヤリとした光を纏いながら浮遊している。
「ふふっ……キレイよね。蛍って」
と、いきなり背後から声が聞こえてくる……蛍の声だった。
そして、次の瞬間、予想外の出来事が起きた。
「うわっ!? な、なにっ?」
いきなり何か液体のようなものを、僕は浴びせかけられたのだ。
あまりにも突然のことだったので、僕はただ慌てるだけだった。
「ふふっ。安心して。これからホタルビ様の儀式が始まる……黒須君はただここにいるだけでいいから」
「え……ほ、ホタルビ様の儀式って……」
するといきなり暗闇の中にボッと明かりが灯った。
それは……火だった。明かりに照らされて微笑む蛍の顔を見ることが出来る。
「蛍……何やって……」
すると、蛍はいきなりその火を……自身の腕に近づけていったかと思うと……着火した。
火はものすごい勢いで蛍の身体を駆け上がっていき、あっという間に蛍は火だるまになった。
「さぁ……二人でホタルビ様になりましょう?」
火に包まれた蛍の声が聞こえる。
その時になってようやく、僕は、蛍が自分に浴びせかけてきた液体が灯油臭いことに気付いたのだった。